ダニ、住環境、気象要因とアレルギー疾患(その2)アトピー性皮膚炎
環境をどのようにみるか
環境の影響をどのように解析するか

中部大学応用生物学部
環境生物科学科
環境動物 須藤千春

 

アトピー性皮膚炎患者の皮膚水分率及び住環境

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1.はじめに

アトピー性皮膚炎の成立や悪化には、ダニなどのアレルゲンに対するアレルギー炎症反応と、皮膚のバリア機能の低下による皮膚の乾燥(atopic dry skim)が関係していると考えられる。そこで、アトピー性皮膚炎の悪化要因、皮膚の水分率及び患者宅の住環境、特に温湿度について調査した。その結果、アトピー性皮膚炎患者の皮膚は水分の保持能及び吸水能の低いことが示された。特に新生児の皮膚水分率は極めて低かった。最近の乳児4ヶ月検診では、春および秋にアトピー性皮膚炎の乳児が有意に多いことが示されている。生後間もなく冷房や暖房を経験した乳児ではアトピー性皮膚炎が発症しやすいと推定された。そのメカニズムとしては神経原性炎症が推定される。

.アトピー性皮膚炎者の皮膚水分率

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成人アトピー性皮膚炎患者95名と成人健常者46名の皮膚水分率を比較した結果、患者では水分率が有意に低いことが示された。

3.水分負荷試験

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蒸留水を1滴前腕に滴下し、10秒後に拭き取り、30秒毎に皮膚水分率を測定した。その結果、患者では滴下直後およびその後の水分率が有意に低かった。すなわち、患者の皮膚では水分の吸水および保水能が低いと推定された。

4.皮膚における水分の分布

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セロファンテープで前腕をストリップングして、皮膚における水分の分布を調査した。アトピー性皮膚炎患者では皮膚表面の水分率の低いことが示された。この結果は患者の皮膚では水分の蒸散が大きく、乾燥していることを示した。

5.新生児の皮膚水分率

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生後1週間、生後1ヶ月およびその母親の皮膚水分率を比較した。新生児の皮膚水分率の低いことが注目された。すなわち、皮膚のバリア機能(水分の蒸散阻止能)は発育に伴い発達すると考えられた。

6.アトピー性皮膚炎患者宅の温湿度と皮膚水分率、症状スコア(軽症例)

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患者Aでは室内の湿度の低下により、皮膚水分率が低下し、同時に症状スコアが高くなった。患者Bでも室内湿度の低下により症状スコアが高くなったが、皮膚水分率も高くなった。この患者は保湿剤の使用量が多かった。

7.アトピー性皮膚炎患者宅の温湿度と皮膚水分率、症状スコア(重症例)

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患者Cの症状スコアは夏期には低く、11月から顕著に高くなった。皮膚水分率は夏期に高く、11月から顕著に低下した。最も重症な患者Dでは夏期にも症状スコアが高く、皮膚水分率も高かったが、秋になり皮膚水分率の低下によりさらに症状スコアが高くなった。これらの結果から、室内湿度の低下→皮膚水分率の低下→症状の悪化という過程が考えられた。

8.室内温湿度と皮膚水分率

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以上の結果を定量的に検討した結果が上図である。

9.皮膚水分率と症状スコア

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皮膚水分率が低下すると症状スコアも低下することが示された。

10.アトピー性皮膚炎の悪化要因(アンケート調査)

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アトピー性皮膚炎患者30名および健常者76名に皮膚炎の悪化および痒みの誘発要因を調査した。アトピー性皮膚炎患者では、発汗、エアコン、入浴、就寝などの体温が上昇し、皮膚から水分が失われる時に悪化すると答える人が多かった。健常者でも体が温まった時に痒みが誘発されると答える人が多かった。すなわち皮膚からの水分喪失が痒みの誘因であると考えられた。

11.重症アトピー性皮膚炎の病理組織像

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(1)皮膚表面に角層がみられないバリア機能がなく水分が失われやすい
(2)皮膚表面近くまで知覚神経が伸びている。この知覚神経は、物理的要因や化学的要因により刺激され、炎症誘発物質を放出する。炎症物質は肥満細胞の脱類粒を起こして、ヒスタミンを遊離させる。また、この神経は脊髄から脳、特に感情脳といわれる扁桃核や海馬に達する。

12.アトピー性皮膚炎の発症・悪化モデル

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(1)アトピー性皮膚炎は乳幼児期に発症し、発育に伴い自然治癒する。この原因としては、乳幼児期にはバリア機能が低いので皮膚から水分が失われることが関係していると考えられる。
(2)都市化や住宅の近代化、特に冷暖房の普及により室内の温度は高くなり、湿度は低くなっている。室内湿度の低下は、皮膚からの水分蒸散を高めている。
(3)皮膚からの水分喪失により皮膚の浸透圧が変化し、知覚神経を刺激する。
(4)知覚神経は軸索反射により神経原性炎症を引き起こす。

全体のまとめ

1.アトピー性皮膚炎患者や乳児の皮膚水分率は低い。室内湿度の低下により皮膚炎が悪化する。

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