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1 あいち小児保健医療総合センター・アレルギー科医師「リレートーク」第1回/メールマガジン86号

みなさん、こんにちは。
あいち小児保健医療総合センターアレルギー科医師の漢人直之(かんどなおゆき)です。
好評だった岩手医科大小児科の佐々木朋子先生の連載が終了し、しばらくの間、あいち小児センターアレルギー科医師を中心に、リレートークの形でこのコーナーを担当させていただくことになりました。そのトップバッターが私というわけです。リレートークとはいえ、何か決まったテーマをリレーするわけではなく、おそらく徒然なるままに筆者が日々感じていることを書かせていただくことになると思います。どうぞよろしくお願いします。

 さて、まずは自己紹介から。私の苗字である「漢人」という名前の人は非常に少なく、名古屋市には私の家族しかおりません。「中国の人(漢の人)ですか?」とよく聞かれますが、生まれも育ちも名古屋の、生粋の日本人です。
 あいち小児センターには平成21年より勤務しており、もうすぐ丸5年になろうとしております。あいち小児センターの前は、福岡県の国立病院機構福岡病院小児科で2年間小児アレルギーの研修をして参りました。医師になる前の大学生時代は、それまでずっと野球をしてきたこともあり、「スポーツドクターになって、ドラゴンズかグランパスのチームドクターにでもなろう」なんて考えていたのですが、どこでどうなったか小児科医となり、気付いたらアレルギーが専門となっておりました。現在は、食物アレルギーの方をはじめとして、日々アレルギーを持つたくさんのお子さんたちの診療にあたっています。
 前置きが長くなってしまいましたが、今回は「バランス」・「目標」という言葉をテーマに、診療を行なう上で私が大切だと考えていることを書いてみたいと思います。

 私は何か物事を行なう際、様々な意味でバランスを保つことが大事だと考えています。もちろん、アレルギーの診療でもバランスについて意識しています。例えば、重症度の高いアトピー性皮膚炎の赤ちゃんがいたとします。生後数か月でほっぺはジュクジュク、首や上半身もザラザラで赤い湿疹がたくさんできていて、抱っこをするといつもかゆい顔をお母さんの服にこすりつけてきます。ゆっくり眠れず、1−2時間ごとに目をさましては泣いています。お子さんがこのような状況だったら、皆さんはお子さんにどうしてあげたいと考えるでしょうか?
 医療者側の立場からこの赤ちゃんに対してガイドラインに基づいた標準的治療を行うことを考えてみると、まずは適切なスキンケアとステロイド外用薬を中心とした外用療法を行うことになります。それでも思ったような改善が得られない場合は、アレルギーの関与を考えて血液検査や皮膚テストなどの結果を参考に食物除去を行ってみる必要があるかもしれません。アトピー性皮膚炎の診療ガイドラインでは、このように「スキンケア(皮膚の清潔保持と保湿)」、「適切な外用療法」、食物をはじめとする「悪化因子の除去」という3本柱のバランスを保ちながら治療を行い、良好な皮膚状態を保つことが治療目標とされています。
 しかし、このガイドラインに基づく考え方はあくまで医療者側が作り上げたものであり、患者さんや保護者の方がすべて同じように考えるとは限りません。
『ステロイド薬はなるべく使いたくない』
『少しくらいかゆくても自然治癒力にまかせたいので、何も塗り薬は使わない』
『食物除去だけで何とか治してあげたい』
などなど、色々な考え方があって当然です。

従って、
「アトピー性皮膚炎ですね。湿疹がひどいからステロイドの塗り薬を出しておきます。」
『なるべく薬は使いたくないのですが…。』
「ガイドラインにも書いてあるし、こちらの指示に従っておけば大丈夫ですよ。」
などと、単に医療者側の考え方を押し付けてしまっては、良好な治療を行えるはずはありません。
 アレルギー疾患は長い付き合いになることも多く、患者さんと医師の間で治療目標を共有することがとても大切です。上の例において、かゆみのひどい赤ちゃんを何とかしてあげたいという気持ちは、医師も保護者の方も同じはずです。また、重症な乳児アトピー性皮膚炎では、ジュクジュクの湿疹から体内のたんぱく質が漏れ出して低たんぱく血症になったり、引き続いて起こる下痢により体重減少・脱水・低ナトリウム血症を生じて命が危険にさらされたりすることもありますが、赤ちゃんをそんな厳しい状況に追い込みたくないということは共通しているはずです。このような共通している認識を確認しながら、
『ステロイドは、塗るべき時はしっかり塗り、よくなったら塗るのを1日おきとして副作用が出ないようにしながら湿疹の悪化を予防しましょう』とか、
『低たんぱくなどの重篤な合併症が心配される状況になってしまった場合は、こちらからステロイドを必ず塗って下さいと言いますので、まずはステロイドを使用しないで経過をみていきましょう』
などと目標を共有する、そんな関係が必要だろうと考えます。
 もちろん、目標を共有することの大切さは他のアレルギー疾患でも同じです。ぜん息の管理で、積極的に薬剤を使用して症状が全くない完璧なコントロールを目指すのか、少ない薬剤で管理することを優先してなるべく早期に治療のステップダウンを目指すのか。食物アレルギーで、少しでも症状が出そうであれば安全性を重視して完全除去を続けるのか、摂取できる可能性を探るため多少リスクがある場合でも経口負荷試験を行って積極的なアレルゲン摂取を目指すのか。それぞれの方針にはメリット・デメリットがあります。医師と患者さんの間で具体的な目標を共有するためには、医師からそれぞれのメリット・デメリットを正しくお伝えしなくてはならないと思います。
一方、患者さんとしては医師に方針を任せきりにしないで、自らの意見をしっかり持って医師に伝えていただくことが大切だと私は考えています。アレルギー疾患を持つ人の多くは普段元気であるため、改めて治療目標を考える機会は少ないかもしれません。しかし、医療者と目標を共有するためには、患者さんとしての考えをまとめておかなければなりません。インターネット、ママ友、雑誌などから非常に多くの情報が流れてくると思いますが、自分にとって都合の良い情報のみを取り入れてしまうことのないようにしましょう。得られた情報を自分なりに整理し、疑問点は医師に確認してください。医師が説明する内容は多くの経験や過去の報告に基づいていますので、自分の考えていた方針と説明された内容が異なる場合でも、参考にする価値があるはずです。

 患者さんと医療者の間で良いコミュニケーションがとれれば、きっと良い医療を受けられるはずです。皆さん、ぜひ自分なりの目標を立てて、それを医療者と話し合い、バランスの良い医療を受けてください。
最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました。


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2014年01月27日 15:30に投稿されたエントリーのページです。

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