皆さんこんにちは。昨年度まであいち小児で研修をさせて頂いた中田如音と申します。
リレートーク、今回はあいち小児の卒業生である私が担当させて頂きます。
私は4月から名古屋第一赤十字病院小児科でアレルギー外来を担当しています。
また週1日1人ずつですが、日帰り入院での食物経口負荷試験も始めさせて頂きました。毎日多くの患者さんを診療していたあいち小児から異動してみると、アレルギー専門施設としてのあいち小児のレベルの高さを改めて実感するとともに、非専門の小児科診療におけるアレルギーについての情報格差の存在に気づかされます。
そんな私が最近気になっていることから2つ、書かせて頂こうと思います。
まず一つ目は「アレルギー検査の扱い方」についてです。
例えばこんな患者さんがいました。普通ミルクを摂取しても症状のなかった赤ちゃん、離乳食を始める前にという理由で生後6ヶ月のとき一般外来でアレルギー検査を受けました。結果は牛乳がクラス1。その際明確な指導は受けず、お母さんの判断でアレルギー用ミルクに変更してしまいます。そして牛乳・乳製品を完全除去したまま2年が経過しました。2歳になったからとアレルギー外来にかかった時のアレルギー検査は牛乳がクラス1でした。その後牛乳は症状なく摂取できています。結果的にこの子は牛乳アレルギーではなかったのですが、この経過を皆さんはどう思われますか?
この文章を読まれている皆さんにはご存知の方が多いと思いますが、血液検査で抗原特異的IgE抗体の量を計る、いわゆるアレルギー検査の数値はあくまで参考値であって、アレルギーを診断するものではありません。その数値の解釈には注意が必要で、患者さんごと・食品など項目ごとに個別に考えなくてはなりません。同じ数値でもその食品を食べられている人と症状を起こしたことがある人とでは意味が異なるのです。ゆえに検査結果についての丁寧な説明と、必要な場合は食事指導を含めた定期的なフォローを受けることが大切です。
しかし残念なことに、このアレルギーの基本的な知識が十分に浸透しないまま、アレルギー検査が安易に行われ過ぎているように思います。検査をする医師側にも知識の格差が存在します。誤解を生みやすい検査だとの意識が薄ければ説明不足となり、患者さんの自己判断を助長することになりかねません。さきほどの例ではすでに普通ミルクを摂取できていたにも関わらず、アレルギー検査結果の解釈が医師と母の間で十分に共有されず、ニセモノの牛乳アレルギーが作り出されてしまいました。除去するための家族の努力、牛乳除去によるカルシウム不足のリスクやアレルギー用ミルクにかかった費用などを考えると残念な経過だったと思います。
医師側の情報格差がなくなるよう努力しなければならないと感じるとともに、皆さんや周りの方がアレルギー検査を受けられる場合は、基本的な知識を持った上で検査が扱われるよう確認されることをお勧めします。
二つ目は「子どもに対するアレルギー患者教育」についてです。
ある日の外来でみられた風景です。12歳の男の子、気管支喘息で吸入ステロイド薬を使用しています。「お薬はちゃんとできている?」と医師が聞くと本人はうなずきつつもなんとなく目をそらしています。「週に何回ぐらい忘れる?」と聞き直すと、「最近ずっとやってない。」と発言。すると付き添いのお母さんが「え?やってないの?あんた、何してるの!」と怒りだしてしまいました。「お母さんはチェックされないのですか?」と聞くと「本人に全部まかせているので。」とのことでした。
患者さんが小さい頃は母親主導の治療・ケアで管理できていても、成長に合わせて本人の病気や治療についての意識をうまく育てていかないと、学童期・思春期になってからの治療が難しくなる場合があります。これは子育てのスタイルにも大きく影響されるため、なかなか難しい問題です。成長に伴って子どもから手が離れてくると、下の子ができたり仕事を始めたりと患児以外のことでお母さんは忙しくなりがちです。そこで放任するのではなく、お母さんが実際には手を動かさなくても、「ちゃんとやっていることは見ていますよ。」の見守りメッセージを送りつつ患児に任せることで、本人が自分の体のことを自分で管理する意識を育てていくことが大切だと思います。医師も診療をスムーズに進めるためにお母さん相手にいろいろ話してしまうことが多いのですが、患児の意識を育てるような言葉がけを少しずつでもしていかなくてはならないな、と思います。
とりとめもない文章になりましたが、あれこれ考えながらそれぞれの患者さんにとってよりよい診療を目指したいと思っております。
最後まで読んでくださってありがとうございました。