明けましておめでとうございます。
旧年中は大変お世話になりました。
本年も宜しくお願いいたします。
認定NPO法人アレルギー支援ネットワークは2006年の設立以来、「アレルギー大学」を活動の軸として、アレルギー患者と医療機関・企業・自治体などの橋渡し役として「アレルギーの会(患者会)」の設立と活動支援、アレルギーの科学的情報の普及、災害時のアレルギー支援活動などに取り組んできました。
このような活動が高く評価され、昨年10月7日に第66回保健文化賞を受賞することができました。これは本アレルギー支援ネットワークの活動を指導・支援・協力してくださった関係者、皆様のお陰であり、深く感謝します。特に本NPOを立ち上げ、活動を牽引、推進してくださった故栗木成治さんにお礼、感謝申し上げますと同時に、ご冥福をお祈りいたします。
保健文化賞の主催者は第一生命保険株式会社で、1950年に一般衛生思想の普及と保健衛生施策の向上のためにこの賞を設定したとのことで、保健衛生分野の権威ある賞として広く認められています。第一生命は戦前から国民病とも言われていた結核の早期発見・早期治療に尽力してきました。その活動を基盤として、戦後に結核予防協会が発足し、結核制圧に大きく貢献しました。1950年ごろの結核患者数は毎年50万人を超えていましたが、2011年の新登録患者数は22681人であります。
このような結核患者の急激な減少に反比例するように近年では気管支喘息やアトピー性皮膚炎、花粉症、食物アレルギーなどが著しく増加しています。つまり結核は昔の国民病で、アレルギー疾患は現代の国民病であると言えます。換言すると、結核などの細菌感染症が減少したことにより、私たちの身体はアレルギー疾患を発症し易くなったと考えられます。
では、なぜ私たちはアレルギー疾患を発症し易くなったのでしょうか?その答は私たちの生活環境の変化によると考えられます。敗戦後、高度経済成長を経て、上下水道の完備、強力な多種類の抗生物質の登場および家畜飼料への混入、多用などにより細菌に感染する機会が激減しました。
また都市環境はコンクリートやアスファルトによって塗り固められ、都会人は日常的に土や植物、動物に触れることは稀になりました。さらに食生活も魚食から肉食への変化により、青魚に多量に含まれているエイコペンタエンサンの摂取が減り、アレルギー症状が出易くなっています。このように生活環境が整い、衛生的になるにつれてアレルギー疾患が増加することは世界中で認められています。アレルギー疾患の増加に関するこのような考えを「衛生仮説」といいます。この考えを実証するために花粉症の患者ボランティアを対象に結核の予防ワクチンであるBCGを注射したところ、アレルギーが抑制されると報告されています。そのメカニズムとして、結核に感染すると、免疫の司令塔といわれるヘルパーT細胞がT型になり(Th1)、Th1細胞が分泌するIFN−γが、アレルギー反応を誘導するU型ヘルパー細胞(Th2)の増殖を抑制することによると説明されています。
一方、アレルギー疾患は子どもの成長により変化することが知られています。典型的な例では乳幼児期にはアトピー性皮膚炎と食物アレルギーが多く、学童期になると気管支喘息を発症し、その後アレルギー性鼻炎を発症します。このような変化をアレルギーマーチと言います。乳児期にはミルク、卵、大豆等を経口的に摂取することにより感作されてアトピー性皮膚炎を発症すると考えられていました。
ところが最近の研究で、体内への異物の侵入を防ぐ皮膚のバリアー機能の低下があって、それが免疫の異常を引き起こすという経皮感作説が支持されるようになってきました。皮膚のバリアー機能をもつ蛋白質は「フィラグリン」と呼ばれ、フィラグリン遺伝子に異常があると、アトピー性皮膚炎や気管支喘息の発症率が数倍高まると言われているが、異常がない患者でもフィラグリン遺伝子の発現が低下していると言われています。
イギリスでは皮膚に塗るベビーオイルに含まれているピーナツバターによるアレルギーの報告があり、日本でも数年前に加水分解小麦を含む洗顔用石鹸の使用により小麦に対する食物アレルギーを発症した事件がありました。これらは皮膚のバリア機能低下によって感作された典型例です。つまり、フィラグリンの発現低下や石鹸の使用などにより皮膚のバリアー機能が低下すると、アレルゲンが皮膚から侵入して感作が成立してアレルギーマーチの発端になると考えられます。
私は以前に乳児の皮膚水分率を学生実験で測定したことがあります。生後3ヶ月の乳児の皮膚水分率は母親の半分以下で、1週間の乳児はさらにその半分でした。すなわち胎児は羊水中に浮いていたので、出生後数ヶ月は皮膚のバリア機能が不完全であり、そのような状態で暖房や冷房を行いますと、皮膚から水分が失われ、バリア機能がさらに低下してアレルゲンが侵入し易くなると考えられます。
すなわち乳幼児期のバリア機能の低下・破壊を発端として、持続的なアレルゲン曝露、Th2型反応の誘導、高IgE値、アレルギーの発症という過程が考えられ、近年におけるアレルギー疾患の増加の背景には都市化や地球環境の温暖化に伴う高温・乾燥化に加え、暖房や冷房の普及に伴う室内相対湿度の低下が大きく関係していると推察しています。
これがアレルギー疾患増加に対する私の「生活住環境乾燥化説」の粗筋であります。新年の挨拶としては不格好ですが、ご容赦ください。
認定NPO法人アレルギー支援ネットワーク
理事長 須藤千春