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9、第41回「防災講座-20:津波対策を知る」防災士 中根輝彦/メールマガジン123号

 メルマガをお読みの皆さん、こんにちは。防災士の中根輝彦です。
 前回に続き、津波避難について考えます。今回は津波避難訓練について掘り下げてみようと思います。

 津波避難の基本は走って逃げること。如何に速く逃げるかという自己の運動能力との戦いです。水平避難ならより遠方へ、垂直避難ならより高所へ。被害予想から到達目標(何分後に○○に到着)を立てて、避難訓練(というより体力トレーニング)を繰り返すことが重要です。走力が鍛えられて逃げ切る目安が付くようになったら、いろいろな状況で突発的に避難行動を起こす練習をするのもよいでしょう。季節(夏や冬の厳しい時期)、時刻(明るい日中・夜間・就寝中)、状況(調理など火気使用中・入浴中・就寝中・通勤通学中etc)、天候(風雨、雪、炎天下etc)など、より厳しい条件でも克服できるように、繰り返しトレーニングしましょう。一人でやるのが難しかったら、シェイクアウト訓練のような、いっせいに避難行動を起こす訓練をするのもよいかもしれません。

 こんなことを書くと、辛すぎてとても耐えられないって声が聞こえてきそうですが、生き延びるための自助努力は避けられない取り組みです。あとから行政の責任を問うても手遅れです。命あってこそです。自分の命を行政に委ねるなんて考えられません。最大限の自助努力をして下さい。南海トラフ地震で巨大津波の襲来が予想されている三重県南伊勢町では、高齢者も逃げ切るための体力づくりを兼ねた介護予防に取り組んでいます。愛知県西尾市吉良町白浜地区では、高校と保育園が連携して、一緒に近くの山へ逃げる避難訓練をしています。東日本大震災の被災地、宮城県石巻市では、M9地震想定の総合防災訓練に1万3千人が参加して避難訓練が実施されています。以下に事例を紹介します。参考にして下さい。
(それぞれリンクになっています)

平成26年度内閣府地震・津波防災訓練(愛知県西尾市)

平成28年度石巻市総合防災訓練(宮城県石巻市)

ユニークで実践的な津波避難訓練(大阪府堺市)

津波から逃げる体力づくりを兼ねた介護予防(三重県南伊勢町)


 津波避難訓練は、走り回って体を酷使する訓練です。誰もが辛いと感じるのです。やりたくないと思うのは当たり前の感覚だと思います。いざというときに必要となることをやらなければ訓練を実施する意味がないと、理屈ではわかっていても気持ちが付いてこないですよね。困難に立ち向かう勇気を奮い立たせるメンタルトレーニングも必要ですが、まずは、楽しい防災(楽しい雰囲気の中で辛いことをやる)が必要かもしれませんね。訓練内容を楽しいこと(=遊び)にするのではありません。辛いことでも我慢してやれるよう楽しい雰囲気でやるのです。やれるところから、やれるレベルから。

 ここまでの話は、自分で逃げることができる人向けのお話です。自分独りで避難できない人の支援をどうするか、対策を考えねばなりません。傷病者、妊婦、乳幼児、高齢者、障害者、外国人など、情報収集・状況判断の不足による避難行動開始の遅れや、避難行動そのもの(素早い行動・体力)の限界をどうカバーするかという話です。

 従来より三陸地方には「津波てんでんこ」の教えがあります。まずは自分が生きのびるために最大限の努力をする、家族がてんでんばらばらになろうともかまわず逃げる、という主旨です。決して家族を見捨てるのではなく、家族もそれぞれ逃げ切ってくれると信じて、自分の避難行動に集中するということです。ひとりでも生きのびれば、一族が耐えることなく家系は次へ繋がる。津波から逃げることはそれほど厳しいことなのだと、肝に銘じて備えよという教えだと思います。

 近年は社会福祉の発展により、平常時の高齢者障害者向けサービスが充実してきています。当事者家族や医療福祉の専門家だけでなく地域で支えあうまちづくり(地域包括ケア)も広がってきています。さらに、平常時の支援だけでなく、災害時の福祉支援として避難行動や避難生活の支援も取り組みが始まっています。これらの観点から、「津波てんでんこ」の見直しを迫られています。自分が逃げ切ることで精一杯かもしれないが、それでもなお、要支援者の避難支援ができないかという問いかけです。

 次回は引き続き、災害時の避難行動支援や行政への要望打ち上げなどを考えます。

防災士 中根輝彦


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