理事長挨拶
認定NPO法人 アレルギー支援ネットワーク 理事長
大医会 日進おりど病院 小児科部長
坂本龍雄
春はすぐそこに 早いもので間もなく桜の開花を迎えます。新年度を迎えるにあたり、皆様のアレルギー支援ネットワークへの暖かいご理解とご支援に対しまして、心から感謝申しあげます。
戦争する国にしない まずは差し迫った課題から。昨年暮れに放送された「徹子の部屋」で、タモリさんが「来年は新しい戦前になるんじゃないでしょうか」と発言し、SNS 上で話題になっています。米国と中国の対立が激化していますが、わが国でも中国を敵視する風潮が拡大しています。タモリさんは、国民の心の中に蔓延するこうしたこれまでにない好戦的な空気に警鐘を鳴らしたのだと思います。
戦後、わが国はどの国とも戦争をしないと決めました。武力による威嚇や武力の行使を行わないこと、専守防衛に徹することを国是としました。しかし、岸田政権は多くの国民の願いを顧みず、軍事大国化を目指そうとしています。年末に閣議決定された「安保3文書」には、敵基地攻撃能力の保有や5年以内の軍事費2倍化など、専守防衛をかなぐり捨て、わが国を戦争する国に変貌させる道筋が描かれています。
アレルギー支援ネットワークは、アレルギー疾患があろうとも、子どもたちがのびのび・すくすく育つことができる社会作りを行っています。戦争はまっぴらごめんです。タモリさんのメッセージに呼応し、戦後が永遠に続くよう、多くの仲間と力を合わせてがんばることを誓います。
校外授業:食物アレルギー対応のピットフォール 昨年11月、一宮市の小学校の修学旅行で小麦アレルギー児童のアナフィラキシー事故が発生しました。保護者が事前に宿泊先のホテルと念入りに打ち合わせをしたにもかかわらず、当該児童の証言によれば当日の朝食に「麩」入りの味噌汁が誤提供され、その日の最初の観光地で重篤なアナフィラキシー症状が出現しました。ホテル側が「麩」入りの味噌汁の誤提供を認めていないことなどから、現在、このアナフィラキシー事故の検証作業は座礁しています。
アレルギー支援ネットワークと患者会との意見交流会に於いても、修学旅行や山の学習などの校外授業における食物アレルギー対応の不十分さを指摘する声が多く聞かれます。そのいくつかを紹介します。
・宿泊先でアレルギー対応(代替食の提供)をしてもらえない場合がある。
・ホテルや民宿のアレルギー表が間違っていた。
・宿泊先が勝手にメニューを替えたり、原材料が代わったりした。
・同じ市内でも行先や宿泊先がバラバラで、そのため学校によって対応が違う。
・養護教諭の負担が大きいと感じる。宿泊先との話し合いに栄養教諭に同席してもらいたい。また、宿泊行事の時は、看護師に同行してもらいたい。
校外授業の宿泊先の食事提供者は、食物アレルギー事故を未然に防ぐための知識や経験が十分でないことが多く、事故やトラブルが発生する危険性が少なからずあります。当面は学校側が主導して、食物アレルギー対応に関する情報共有やチェックを入念に行う必要があると考えます。
学校・教育委員会を機能アップする役割を担う 文部科学省から発刊された「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」(2019年改訂)には、「学校の管理下において事故等が発生した際、学校及び学校の設置者は、発生原因の究明やこれまでの安全対策の検証はもとより、児童生徒等に対する心のケアや保護者への十分な説明、再発防止などの取組が求められます。学校は、状況や問題となった原因、改善方法について管理職に報告し、情報を共有し、アレルギー対応委員会で対策を検討して事故予防の徹底に努めることが重要です。また、その内容を校長は教育委員会へ報告します。教育委員会は、その詳細と改善策の報告を各学校に求め、集約し、改善策と共に所管内に周知を図り、事故防止に努めることが重要です(一部省略)」と明記されています。
そこで、アレルギー支援ネットワークは一宮市の被害児童の保護者や患者会と連絡を取り合い、愛知県教育委員会教育長宛に「宿泊行事における食物アレルギー対応に関する要望書」を提出しました。要望項目は次の通りです。
1)愛知県内小中学校に対して一宮市の事例を共有し、注意喚起を行ってください。アナフィラキシーの原因解明と同様の事故の再発防止のために、一宮市教育委員会内に事故再発防止検討委員会を設置し、調査検討をしていただくよう促してください。
2)愛知県内の小中学校の宿泊行事の宿泊先でのヒヤリハット事例や事故事例を調査し、個別に十分な原因調査と予防対策の整備を実施してください。
3)山の学習の宿泊先の食事に関するアレルギー対応の調査を行い、アレルギー研修を実施してください。
アレルギー支援ネットワークは今後も被害児童や保護者の側に立ち、患者会の協力を得ながら学校や教育委員会の機能アップに取り組む所存です。
渾身の力を込めて「アレルギー大学」の利用拡大をお願いします アレルギー支援ネットワークは、コロナ禍にあっても「アレルギー大学」を中止することなく、関係者の知恵とインターネットを駆使してこの事業を継続してきました。そして、2023年度の「18期アレルギー大学」は、従来の対面式「アレルギー大学」に決して引けを取らない本格的なインターネット「アレルギー大学」として開講されます。乞うご期待です。
インターネット「アレルギー大学」は、教材に関するIT情報、運用のためのITシステム、それを取り扱うスタッフなどからなります。私は人類に幸福をもたらす宝物だと自負しています。それだけにかなりの財政的な投資を必要としたし、今後も事業の管理・継続のために相当額の費用が発生します。インターネット方式ですから受講者の上限はありません。宝の持ち腐れを許さず、利用拡大を有効に進めていくためには、皆様にこれまで以上のご援助をお願いせざるをえません。具体的には、従来の実績に加えて100数十人の受講者増を達成することです。インターネットの⻑所を活用して全国から広く受講者を呼び込みます。しかし、それ以上に皆様ご自身の再受講、そして、お1人でよいので、ご友人と一緒に受講して頂くことが最大の力になると期待しています。「アレルギー大学」に対する社会のニーズに応えるため、校内外の食事に関わる学校や教育委員会の方々、旅行者や宿泊先の方々にも声を掛ける予定です。運営スタッフ一同、心をひとつにして次年度の開講に向けて奮闘する所存です。
ご支援とご協力をよろしくお願い申しあげます。
最後に、アレルギー支援ネットワークは引き続き科学的合理性に裏打ちされたアレルギー情報の啓発普及や、アレルギーに悩む子どもたちに寄り添いつつ、支援を組織する大事業に取り組んで参ります。これからも皆様からのさらなるご支援ご鞭撻を再度お願い申しあげます。