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理事長挨拶/メールマガジン183号

理事長挨拶

認定NPO法人 アレルギー支援ネットワーク 理事長
北医療生活協同組合 あじま診療所 所長
坂本龍雄

年明けを祝っているうちに早くも大寒を迎えました。この厳しい寒さを耐えると、春の始まりである立春がすぐにやってきます。アレルギー支援ネットワークは、アレルギーをもつ子どもたちがのびのびと楽しく、そして、安心して暮らせる社会を実現するため今年も全力で奮闘します。

「アレルギっ子のフェア」の5年ぶり開催
先月の12日、5年ぶりに「アレルギっ子のフェア」を開催しました。コロナ禍による中断が嘘のようで、400人ものアレルギっ子と保護者の皆さんが参加されました。工夫を凝らした企画や展示ブースには多くの人だかりができていました。展示ブースは従来からご協力いただいている企業に加え、経口免疫療法などに用いるアレルゲンを自宅で食べるための製品を提供する企業など、数社が新規に参加されました。来年も開催をとの声が多く寄せられたのは、関係者の皆さんが準備・運営にご尽力いただいたおかげです。心から感謝申しあげます。この賑わいを眺めながら、アレルギっ子と保護者の皆さんが主人公になって楽しめる機会をもっともっと拡大すべきだと感じました。

さらに役割を増す「アレルギー大学」
今年度も「アレルギー大学」が開講され、今も多くの受講生が学んでいます。「アレルギー大学」は食物アレルギーを体系的に学ぶ全国で唯一の市民講座であり、インターネットを介して全国のどこからでも受講が可能になっています。昨年度から「食物アレルギーアドバイザー」の資格を発行するなど、様々な創意工夫がなされています。しかし、引き続き財政問題が深刻で、現状のままでは2年後の開催が危ぶまれます。財政問題の解決策はシンプルで、受講生をあと100人増やすことです。皆さんのご協力があれば十分に達成可能だと思いますがいかがでしょうか。来年度はぜひ、「アレルギー大学」を周りのお知り合いにご紹介ください。

「アレルギー大学」の修了生が職場・地域・家庭にいると間違いなく食物アレルギー対応が改善されます。多くの実績がそれを証明しています。「アレルギー大学」は市民向けに学習機会を提供することを本来の目的としていますが、結果として、職場・地域・家庭の食物アレルギー対応を改善する最強のツールになっています。この観点からの「アレルギー大学」の役割をあらためて強調したいと思います。

「おいしく治す 食物アレルギー攻略本」改訂版を発行
あいち小児保健医療総合センターの伊藤浩明センター長(アレルギー支援ネットワーク副理事長)が監修する「おいしく治す 食物アレルギー攻略本」の改訂版がアレルギー支援ネットワークから発行されました。微量摂取を主体とする、安全性と負担軽減を重視した経口免疫療法のわかりやすい解説も掲載されています。巻頭には、伊藤先生からの「本書が、食物アレルギーを克服したいと考えている患者様と、それを支える医療者の皆様のお役に立てることを祈念しています」とのメッセージが書かれています。

学校給食費無償化は食物アレルギー対応の改善の鍵
先の総選挙では政治倫理の腐敗に対する国民の怒りが噴出し、自民公明両党の過半数割れの政局が生まれました。わずかにしろ、国民の正当な要求が実現する展望がみえてきたように思われます。こうしたなか、学校給食費無償化に向けた動きが活発化しています。学校給食費無償化と給食の食物アレルギー対応の改善は密接に繋がっています。この点を整理してみます。

学校給食法の第1条には、「学校給食が児童及び生徒の心身の健全な発達に資するものであり、かつ、児童及び生徒の食に関する正しい理解と適切な判断力を養う上で重要な役割を果たすものである」と明記されています。また、教育基本法第3条には、家庭の経済的・社会的背景の違いにかかわらず、「すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならない」とあります。学校給食は教育の重要な一環ですから無償を原則とすべきです。

文科省の調査結果(2023年9月)によると、全国の547自治体(約30%)で小中学校の給食費無償化が実施されており、6年間で7倍に広がっています。東京都ではこの1月から公立小中学校の給食費が全域で無償化されています。学校給食の無償化が広く求められていることは明らかです。この潮流を確実に拡大するためには財政的な基盤が必要であり、「国の責任で全国どこでも給食を無償にすべきだ」という視点を共有すべきだと思います。

文科省は学校給食無償化に向けて2つの問題提起を行いました。
▶公立学校に限って実施した場合でも、食材費として4900億円ほどの安定財源の確保が新たに必要になる。
▶食物アレルギーといった個別の事情で、弁当を持参しているケースや、不登校の場合など、給食を食べていない子らが61万人ほどいて、一律に無償化してもこうした人たちに恩恵が及ばない。
「もっと前向きに検討できないのか」と、怒りの声が口を突いて出てしまいます。

給食における食物アレルギー対応は原因食物の除去食対応が基本になっており、除去による献立や栄養の不足の一部を家庭からの弁当対応で補っています。しかし、家庭の養育機能や経済力の格差の広がりを考慮すると、除去食対応は、学校給食法第2条にある「適切な栄養の摂取による健康の保持増進を図る」という給食の第1の役割を十分に保証するものではないと思います。一刻も早く、代替食対応を給食における食物アレルギー対応の基本に据えるべきです。代替食対応の推進は安全を最優先するという現在の基本方針に矛盾しません。また、除去を補って給食を楽しむ工夫をすれば、食育のよき教材になるのではないでしょうか。

国が責任をもって学校給食費を無償化すれば、自治体や学校は財政的な余裕をもって代替食対応を推進することができます。そして、学校給食に地場産物を積極的に活用して食育の教材にすることも可能になるでしょう。

PFAS汚染から子どもたちを守ろう
少々唐突ですが、食の安全に関連してPFAS汚染の拡大を阻止するための訴えをさせていただきます。以下、北医療生活協同組合発行の「医療とくらし」2月号に投稿した一文をお読みください(一部改変して引用)。

PFASは人が作り出したおよそ5000種類もの化学物質の総称です。水や油をはじき、高熱や腐食物にもすぐれた耐性をもつことから幅広い用途をもっています。半導体・家電・自動車などの製造に不可欠です。食品包装紙・撥水スプレー・化粧品などに使われています。以前は、大規模な燃料火災が想定される軍事基地・空港・石油コンビナートなどにPFASを用いた泡消火剤が配備されていました。このようにPFASは現代社会を陰で支えてきました。

しかし、PFASは胎児や子どもの発育や免疫に悪影響を及ぼし、成人のがんや脂質代謝異常などの発症要因になることが分かってきました。2010年以降、PFASの代表格であるPFOSとPFOAの製造・使用が原則禁止されています。しかし、PFOS・PFOAやその他のPFASはすでに土壌・大気・海洋・河川・地下水に漏れ出て、全国津々浦々に拡散しています。もちろん体内にも取り込まれています。「永遠の化学物質(FOREVER CHEMICAL)」と称される頑丈なPFASですから、体内に長期間残留し、緩徐に様々な毒性を発揮すると考えられます。放射線やダイオキシンと似ています。

「PFAS汚染による健康被害は国内では報告されていない」「PFAS規制は、経済・社会への影響を考慮しながら進めるべき」、このような子どもたちの健康を考慮しない無責任な発言を許してはなりません。EUや北米では脱PFASの潮流が高まり、極めて厳格な環境規制が準備されています。私たちも知性を働かせ、PFASのない安全な環境作りに真剣に取り組むべきです。

現在、水道水のPFASの「暫定目標値」は1リットルあたり50ナノグラムです。この春から、この数値はそのままで「暫定目標値」が「水質基準」に引き上げられます。そのことで、自治体や水道事業者にPFASの定期的な水質検査の実施や、PFASの濃度が基準を超えた場合の改善が法律で義務づけられることになります。小さな前進とはいえ重要です。

最後に、アレルギー支援ネットワークの活力の源泉は、皆さんからの暖かいご理解と揺るぎないご支持です。これまで以上のご支援とご協力を賜りますようよろしくお願い申しあげます。