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1 アレルギー情報 最前線 連載第5回(最終回)/メールマガジン43号

☆☆☆愛知県教育委員会
「学校給食における食物アレルギー対応の手引き」解説その5・最終回)

伊藤浩明(いとうこうめい)
(あいち小児保健医療総合センター アレルギー科)

 解説シリーズの最終回は、給食を作る立場でどうやったらアレルギー食に対応ができるのか、という問題を考えてみます。日本学校保健会の「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」でも、食物アレルギーを持つ児童生徒が、教育の一環として給食を食べられることを目指すことが掲げられています。愛知県の手引きではもう一歩具体化して、「卵と牛乳の完全除去対応までは弁当持参の必要のない給食を提供できる」ことを目標として掲げています。

 この目標は、決して実現不可能ではありません。実際、全国の自治体の中にはそれをほぼ完全に実施しているところもあります。保育園では、離乳食など年齢に応じた食事の中で、より複雑なアレルギー対応を実施しているところもたくさんあります。

 病院の給食は、さらに複雑です。年齢も制約もまちまちな入院患者さんに対して、1日3食を完全に提供する中で、あらゆる食材に対するアレルギー対応を「できません」とか、「一部弁当持参」など許されない仕事をしているわけです。しかも、対応の必要な患者さんが突然入院して、数日で退院していく中で、事故のない給食提供を求められます。

 年単位で計画できて、昼食の提供に限られた学校給食が、卵と牛乳の除去食提供をできないはずはありません。何よりも重要なのは、教育委員会や学校が「アレルギー対応の給食を提供する」ことを明確に目標に掲げて、そのために何をしたらいいかをしっかり計画することです。

 対応の進んでいるところが工夫している点は、ほぼ共通です。その基本になるポイントは、次の二つです。

@卵や牛乳を使わない基本メニューを増やす。
A使用する加工食品に卵や牛乳を含まないものを使用する。

 様々な市町村から受診される患者さんに給食の献立を見せていただくと、給食の献立には大きな違いがあります。「対応できない」という市町村ほど、卵や牛乳を取り入れた一見複雑な横文字メニューが目につきます。
 パンや練り製品、フライの衣、ハンバーグのつなぎなど、業者から仕入れて使う食材料に不必要な卵や牛乳を含まないものを選択すれば、業務はずっと単純になります。そうした加工食品を提供する業者はいくらでも存在し、価格が高いわけでもありません。肉や野菜など自然の食材から調理すれば、表示漏れやコンタミネーションの心配もありません。

 この2点を実施すれば、手間もコストも増やすことなく、少なくとも「一部弁当持参」が必要な日数を飛躍的に減らすことは可能です。

 調理の過程で卵や牛乳を使用する場合は、その先の工程をアレルギー対応用に分離することが基本です。施設の条件によっては、最初から別工程で調理を進めた方が合理的で安全かもしれません。卵と牛乳を1日の献立の中で重ならないようにメニューを組めば、対応はよりシンプルになります。
 除去の程度に応じて「完全除去」「加工品は可能」といった段階を設けるかどうかも、検討する余地があります。つなぎなどでの使用がなくなれば、「加工品は可能」という対応は基本的になくなります。代替食材や代替調理で栄養的にも献立としても遜色ないアレルギー食を提供できるのなら、一部弁当持参との線引きを考慮した「加工品は可能」といった対応は必要なくなります。そうすれば、弁当持参に関して保護者と毎月綿密に打ち合わせる手間がなくなり、かえって業務の合理化も期待できます。

 給食の業者委託が進んでいる地域もあるようです。「委託だからできない」ということはありません。現に、私たちの小児センターでも給食は完全に業者委託ですが、どんなに複雑なアレルギー食にも対応しています。行政機関が得意とする「入札」の条件に「アレルギー対応ができること」という項目を明記することです。

 根本的な問題は、給食の予算削減による経費(人員)不足のようです。しかし考えてみると、子どもの食事代に犠牲を払ってでも支出しなくてはならない他の予算など、あるのでしょうか?

 医者の立場で給食作りにまで口出しするのも申し訳ないのですが、「できない」理由を挙げ始めたらいくらでも考えつくものです。実際に実行できている自治体がある以上、「やればできる」ことを前提として、各市町村や学校の決断と努力・工夫に期待したいものですね。

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2010年06月28日 19:21に投稿されたエントリーのページです。

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