和泉秀彦(いずみ ひでひこ)
(名古屋学芸大学管理栄養学部 管理栄養学科 教授)
3.食物アレルギーの抑制
先回までの内容で、食物アレルギーの発症機構(生体内で産生されたアレルゲン特異的IgEが肥満細胞に結合し、再度侵入したアレルゲンがその抗体2分子以上と架橋することで、肥満細胞中に蓄積されていたヒスタミンなどの顆粒が細胞外に放出され、アレルギー症状が現れます)については理解して頂けたかと思います。
しかし、ヒトには簡単には食物アレルギーを発症しない(抑制する)機構が備わっています。一つ目としては、消化管内におけるプロテアーゼ(タンパク質を分解する酵素)によるアレルゲンの分解です。アレルゲンが抗原性を示さないような低分子(ペプチドやアミノ酸)まで分解されてしまえば、アレルギーを発症することはありません。二つ目は、小腸内に分泌されるIgAによるアレルゲンの体内への侵入阻害です。アレルゲン特異的IgAがアレルゲンを捕獲することで、アレルゲンの体内への移行を阻害します。3つ目として、経口免疫寛容があります。経口的に摂取した食物抗原に対して、免疫応答が特異的に不応答化する現象です。普段の食生活において通常摂取している抗原に対して、抗体が産生されない(抗体産生が抑制される)ためアレルギーを引き起こすことはありません。このように、我々には、通常摂取する食餌性タンパク質に対しては、アレルギーを発症しないようにする機構が備わっているにも関わらず、これらの抑制機構をすり抜けてIgEが産生されてしまうと食物アレルギーを発症することになるのです。
では、普段の食生活でいかに食物アレルギーにならないようにするかというと、@調理や加工の段階で、加熱処理や酵素処理により食品中のタンパク質の消化性を上げる。A胃腸の調子を整える。B同じ食品を繰り返し食べない。C『回転食』を心掛け、主食やタンパク質源となる食品を毎食変える。といったような工夫が大切ということになるのではないでしょうか。このような食生活は、食物アレルギーの発症を抑制するという面だけでなく、健康においても効果的な食べ方といえるでしょう。