第1回 アトピー性皮膚炎と季節(その1 赤ちゃんアトピー)
三田皮フ科クリニック 三田哲郎(さんだてつお)
今回から、メールマガジンのアトピー性皮膚炎を担当させていただく三田です。以前、『あんだんて』誌に大人のアトピーの相談コーナーを連載させていただいていたこともありますので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、改めて簡単に自己紹介させていただきます。
愛知県豊明市にあります皮フ科、アレルギー科標榜の三田皮フ科クリニックで診療を行っております。専門はアトピー性皮膚炎、皮膚病の漢方治療ですので、その範囲で、お話をさせていただきたいと考えております。
第1回目は、このメルマガを書いている11月にまつわるアトピー性皮膚炎のお話をしてみましょう。
毎年11月から2月までは、皮膚科のクリニック、病院は一年を通して最も来院患者さんが少ない時期を迎えます。対照的に、内科・小児科ですとこの時期は風邪やインフルエンザが流行るため外来がとても混雑していますね。どうして、11月から2月位という冬の時期に皮膚科が空いているかというと、肌を露出する機会が減るため、皮膚のトラブルが少ないのと、アトピー性皮膚炎の患者さん達にとっては、この時期が汗をあまりかかずに済むことや細菌、カビといった感染する病気を併発しにくい時期だからだと思います。このことが、アトピー性皮膚炎の日頃の注意点を示唆してくれます。次回以降、それについて具体的に触れてみたいと思います。
さて、話を替えましょう。アトピー性皮膚炎の赤ちゃん患者さんは、早い子ですと、生後1ケ月位から顔や耳周り、首を中心に症状が現れてくることがあり、概ね生後4ケ月位で症状が固定して診断がつくようになります。
症状がひどい場合、ジュクジュクした汁が出て、ひっかき傷が無数にみられます。引っ掻いて、髪の毛をむしり取ってしまう子や、かゆみで眠りが浅くなって、一日中不機嫌になる赤ちゃんもいます。この時期は、乳児脂漏性湿疹(生後4ケ月位で自然に治る、かゆみがないのが特徴)や乳児ざそう(赤ちゃんニキビ)をアトピー性皮膚炎と区別しなければいけません。
顔が赤ければ、アトピーの採血を希望されるお母さんもいますが、採血は
本人にかなりのストレスですから、慎重に見極める必要があります。私のクリニックでは、アトピー性皮膚炎の患者さんで生後4ケ月を過ぎた赤ちゃんの一部を対象に、血液検査を施行しています(どこのクリニックでもこの月齢の子供に施行しているわけではありません)。この月齢の子供さんですと血管が未熟であるためか、十分な血液量を採取できないこともあります。何しろ、アレルギーの検査は微量なものを調べるため、ある程度の血液量が必要であり、ちょっと血液が採取できたらそれで良いというわけにいかないからです。
その場合には、申し訳ないことですが、2ケ月位後以降に改めてもう一度再度採血させていただいています。離乳食を生後半年位で開始されるケースが多いので、それまでには食物アレルギーの有無を見ておこうという趣旨です。
ここで不思議なことは、この、生後4ケ月の赤ちゃんアトピーの採血が、11月から翌年4月位までのほぼ限定した行事になっているという事実です。ゴールデンウィーク後から9月にかけての皮膚科の繁忙期には、生後4ケ月の赤ちゃんアトピーの採血のニーズは殆どないと言って良いでしょう。まだ小さな生後4ケ月の赤ちゃんの採血は、血管が細いこともあり、大変な作業で時間もかかりますし、採血をされる赤ちゃんにとって大変なのは当然のことですが、採血を施行する看護師さん達のストレスも相当なものです。それを考えると皮膚科としての繁忙期に行わなくても済むのは正直有り難いことです。
ということは、逆に考えると7月から12月生まれの子供にアトピー性皮膚炎の赤ちゃんが多いことになり、その約半数近くが血液検査で卵アレルギーを検出されてくることになります。産児コントロールはなかなか難しいのですが、もしお子さんを予定されている場合で、お母さんにアトピー性皮膚炎のある場合には、受胎する予定月を考えるヒントになりえると思います。具体的には、2ヶ月位の安全域を考慮して、出産予定月が3月から5月になるように受胎調節ができたら良いかと思います。
但し、3月から5月生まれの赤ちゃんに、アトピー性皮膚炎を発症する子が全くいないわけではありませんので、おおまかな目安と考えてください。
加えて、これは赤ちゃんアトピーの発生時期から考えた話ですので、幼児期以降、小学校や中学校、高校、大人といった時期に初めて発症するアトピー性皮膚炎のことは一切考慮していません。
こうしたら、生まれてくる子がアトピー性皮膚炎にならないといった話ではありませんので、十分注意してください。アレルギー・アトピー性皮膚炎の臨床や予防に絶対と言えるものは何一つないのです。
とはいえ、食物アレルギーを有するアトピー性皮膚炎の多くは赤ちゃん時期からの発症ですので、それを避けるヒントには成り得るのではないかと考えています。
生後4ケ月の赤ちゃんアトピーの採血を約25年前から行ってきましたが、この傾向に変わりはないようです。この現象には、何かそれなりの理由があるのだと思いますが、原因を追求できていませんし、私自身学会などに発表したことはありません。一部の研究者はやはりこのことに気がついていて、過去にまとめて何件か報告されていますが、同様の結果が報告されていますが、なぜそうなるのかは謎のままです。
そして、アトピー性皮膚炎によほど詳しいお医者さんを除いて、大半のお医者さんはこのことを認識していないものと思います。
とりあえず、今月は季節とアトピーのお話をしてみました。
これから、毎月とはいかないかもしれませんが、こういったアトピー性皮膚炎や漢方治療のよもやま話を少しずつ紹介していけたらとは思いますが、どうなることやら…。
では、みなさんお元気で…。