「卵アレルギーでも食べられる卵!?」
独立行政法人国立成育医療研究センター アレルギー科
二村昌樹先生
このタイトルをみて「あのニュースのことね」と分かった方もいるでしょう。特にお子さんに卵アレルギーがある方は気になったニュースだと思います。
実はこのニュースが出る直前に偶然この卵を食べる機会がありました。
私が外来である卵アレルギーの患者のお母さんから「先生、うちの子でも食べられる卵を紹介されたんですけど」と相談されました。その患者さんは卵の加工品少量を食べてアナフィラキシーを経験したばかりだったので、私は危険だから食べないように伝えました。お母さんも自分の子供には無理だろうと思っていたそうですが、知り合いから強く勧められたので私に相談してみたとのことでした。
私が「卵アレルギーでも食べられる卵なんて聞いたことないです」と話したら、次の外来のときにその卵のパンフレットを持ってきてくれました。
早速、インターネットでその販売店を検索し、アレルギー科の同僚の医師や看護師などのスタッフに尋ねてみましたが誰もその卵のことは知りませんでした。ホームページには「卵アレルギーでも食べられる」とは書いてありませんでしたが、ある看護師が興味を持って購入してきた実物の包装には「この卵はアレルギーがでないネ」と記載されていました。
せっかくなのでアレルギー科のみんなで試食してみました。有機飼料などで育ててあるためか他の高級卵のように黄身の色が濃く味も濃厚でしたが、やっぱり「卵」でした。「患者さんが間違って食べて症状でたら大変だ、何とかしなくては」と話をして試食を終えた翌日、消費者庁から注意喚起が発表されました。(http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin430.pdf)
あまりにもタイムリーな発表でしたが、私たちが役所に訴えたわけではありません。(本来ならばもっと早く気がついて行動を起こさなくてはいけなかったかもしれません…)
「卵アレルギーでも食べられる卵」は全国に数種類あったようですが、今回の業者は卵を購入した看護師からの質問に「いやー、何十年も売っているけどアレルギーが出たっていうお客さんはいないからね。うちの卵はアレルギーが起こらないんだよ」と答えたそうです。
これはまったく無責任な論理です。
卵アレルギーの患者さんの親が、たとえおいしい卵や有精卵だったとしても医師の許可なく食べさせるでしょうか?アナフィラキシーを起こすかもしれないのに、そんな危険なことをするはずないですよね。もし食べさせてアレルギー症状が出たとしても、食べさせた親を責める人が多いのではないでしょうか。親自身も自分が悪かったと判断して販売元を責めることはないでしょう。ですから業者の耳にはそのような事実は入らなかったのだと思います。あるいはこれまでお母さんたちが正しい見識を持って食べさせなかったということでしょう。
もし食べられたとしたら、それはすでに卵アレルギーではなくなった(治った、あるいは元々そうではなかった)ということです。遺伝子操作で卵のタンパク質を変えてしまわなければ、「卵アレルギーでも食べられる卵」を作ることは難しいと思います。
皆さんもこれはおかしいと思ったら、自分自身や他の人が誤った行動を起こす前に専門家やアレルギー支援ネットワークに相談してください。