先月は、「シャンプーをとりまく環境の変化」として生活習慣や配合技術、情報など世の中が大きく変わっていることを書きました。今月は、「界面活性剤の変遷」です。
1950年代後半から各種のアニオン(陰イオン)界面活性剤が開発され、さらに1970年代では両性(両イオン)界面活性剤という全く新しいタイプの界面活性剤が開発されるなど界面活性剤は大きく変遷しています。これらの組み合わせなども含めると配合技術は飛躍的に進歩しています。それだけ選択肢も増えました。
(イオンの形による界面活性剤の分類と特徴は6月号をご覧下さい。)
★★アニオン(陰イオン)界面活性剤★★ (シャンプーの主剤に使用されます)
「石けん系界面活性剤」→「高級アルコール系界面活性剤」→「アミノ酸系界面活性剤」という大きな流れがあり、使用感の向上、低刺激性化が図られています。
いずれも天然油を出発原料とし、このなかの高級脂肪酸を活かして目的の界面活性剤としています。(後述の両性界面活性剤でも同じです。) 高級アルコールを直接化学合成することもありましたが、今日の天然志向から化粧品では使用されていません。
★石けん系界面活性剤
石けんは、最も歴史の古い界面活性剤で日本では江戸時代から使用されています。
成分的にみると高級脂肪酸を苛性ソーダで中和して作った界面活性剤です。製法としては天然油を直接苛性ソーダで中和することもあります。石けんは、高級脂肪酸の活用法としては製造工程がもっとも簡単なので低コストの魅力があります。
【化学名】:高級脂肪酸塩 【表示名称】:石けん素地 液状シャンプーに使用する場合は、苛性ソーダに換えて苛性カリで中和するので「カリ石けん素地」と表示します。使用感向上と低刺激化のためにアミノ酸で中和した「アミノ酸石けんシャンプー」もあります。この場合は、カリ石けん素地と使用したアミノ酸(例えば、ヤシ脂肪酸アルギニン)を併記します。
★高級アルコール系界面活性剤 その1 AS 1950年代後半〜
高級脂肪酸を高級アルコールにした後に硫酸と反応させて洗浄力を強めています。
【化学名】:アルキル硫酸塩でASと略記。 【表示名称】:ラウリル硫酸Naなど。 石けんの欠点(石けんカスでギスギスする)を克服した画期的なものでしたが、下記AESなど、より低刺激な素材が開発された現在ではシャンプーにはほとんど使用されません。
高級アルコール系界面活性剤が敬遠されることがありますが、この名残でしょう。
★高級アルコール系界面活性剤 その2 AES 1960年代後半〜
ASにエチレンオキサイド(EO)を付加して高分子化することで肌への浸透力を弱めて低刺激化したものです。 80〜90%のシャンプーに使用されている代表的界面活性剤です。
【化学名】:ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩でAESと略記。 【表示名称】:ラウレス-5硫酸Naなどで 数字の5は付加したEOの数を示しています。
★アミノ酸系界面活性剤
【化学名】:アシル化アミノ酸塩 【表示名称】ラウロイルグルタミン酸Na
高級脂肪酸にアミノ酸を反応させて作ります。石けんにアミノ酸を付加したような化学構造を持つので使用感、低刺激性向上の両面でAESより大きく進化しました。
何故アトピー性皮膚炎に向いているのかは、10月号 「選定に関係するキーワード:低刺激性」で詳しく書く予定です。
★★両性(両イオン)界面活性剤★★の登場 (タイプにより登場年代が変わります。)
洗浄力のあるアニオン(陰イオン)界面活性剤とコンディショニング効果のあるカチオン界面活性剤の機能を併せ持った両性(両イオン)界面活性剤が開発されました。
アミドアミン型 1970年代後半から、アミドプロピルベタイン 1980年代後半からアニオン(陰イオン)界面活性剤と併用することによりシャンプーの使用感が一層向上し低刺激性となります。
この資料で書いた各種界面活性剤が出始めた時期は、日本化粧品技術者会編「化粧品の有用性」(薬事日報社)に載っている 「図5-1シャンプー・リンスインシャンプーにおける界面活性剤、添加剤の変遷」のうち界面活性剤の部分から引用させていただきました。【化学名】と書いた部分はグループの総称です。
なお、シャンプーの形態の変遷の面でみると液状シャンプーが流行りだしたのは1960年代中頃といわれます。