「対人アレルギー」
独立行政法人国立成育医療研究センター アレルギー科
二村昌樹先生
暑い夏が終わり(?)秋のような涼しさをときどき感じるようになりました。今回は読書の秋にちなんで、先日読んだある本に記載されていたことを取り上げたいと思います。
ある心理学者によると「人を嫌いになるのはアレルギーのようなもの」だそうです。ある人を嫌いになるのは、何かをきっかけにして嫌いな感情が起こってしまう。一旦嫌いになってしまうと、その人がその場にいなくても話題になるだけでも嫌な気分になる。嫌いという感情はなかなか治まらず、一生嫌いのままである。このため人を嫌いにならないように予防することが重要である、というのです。
なるほどという反面、ちょっと違うかなと思うところもありました。確かにアレルギーと診断されるときには、初めて卵を食べて食物アレルギーに気がついたり、幼稚園に入ったころから湿疹が出始めたり、妊娠をきっかけに喘息になったりと、何の前触れもなく、突然なってしまうことがあります。一旦アレルギーになると、それまで問題なかった別の要因(たとえば風邪をひいたりして喘息症状がでるなど)でも症状がでたり、ひどくなったりします。アレルギーにならないための予防をしていくことが重要で、数多くの研究が世界中で行われています。
ここまではピッタリと当てはまるのですが「一生アレルギーが治らない」というのは、実際に患者さんを治療している医者の立場からすると文句を言いたくなります。アレルギー体質としては確かに生涯残るかもしれませんが、少なくとも症状を改善したり無くしたりすることは可能です。以前、治るのを待つしかなかった食物アレルギーですら、現在は経口減感作療法によって治すことができるようになってきています。
このことを知り合いの心理士に話したら、心理療法の中にも減感作ならぬ「脱感作」療法というものがあるといわれました。たとえば高所恐怖症の克服のために、階段1段から少しずつ慣らしていき最終的には高いところも平気にさせるというもので、時間と根気のいる治療法だそうです。脱感作を使えば、嫌いな人をそうでもないようにすることができるかも?だそうです。これは経口減感作療法そっくりです。
やっぱり人を嫌いになることも「アレルギーのようなもの」なのでしょうか。いずれにせよ、嫌いにならないように予防することが、自分にも相手にとっても一番です。