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1 「気管支喘息とアレルギー性鼻炎・副鼻腔炎」第六回 〜喘息の薬物療法 吸入ステロイド薬〜 てらだアレルギーこどもクリニック院長 寺田 明彦/メールマガジン66号

第四回で喘息の治療には「三本の柱」があるとお話ししました。

それは

(1)原因・悪化する要因を取り除くこと。
(2)運動や鍛錬などでの体力づくり。
(3)薬物療法です。

そして前回は、喘息の発作時に使う薬=レリーバーについてお話ししました。
今回は、喘息の予防に使う薬=長期管理薬「コントローラー」のお話です。
予防的に投与する薬には、内服薬と吸入薬があります。吸入療法とは、薬剤を気道の中に直接投与し気道壁に沈着、吸収させ効果を発揮する吸入薬による治療法です。吸入薬には抗アレルギー薬であるクロモグリク酸ナトリウム(インタールR)と吸入ステロイド薬があります。なかでも吸入ステロイド薬は全身投与に比べ少ない量で抗炎症効果があり、慢性気道炎症が病気の本質である気管支喘息に対する予防薬の中心的な薬剤です。
吸入薬剤の肺内沈着量に影響する因子
吸入した薬剤の肺内沈着量に影響する要因を図1に示します(参考:小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2012)。まず薬剤側の要因として薬剤の特性である投与量や粒子径と吸入機器の特徴があります。吸入機器はネブライザーと定量吸入器があり、定量吸入器としてはガスを用いて噴霧する加圧噴霧式定量吸入器(pressurized metered-dose inhaler:pMDI)と粉末を自発呼吸で吸うドライパウダー製剤定量吸入器(dry powder inhaler:DPI)があります。次に患者側の要因としては吸入方法が最も重要です。吸入時の呼吸状態が影響し、特に乳幼児では泣くと呼吸のパターンが変化するため安静換気が望ましいです。
H24年5月現在で小児に使われている吸入ステロイド薬の用法・用量と特徴を表1に示します。吸入液はブデソニド懸濁液(BIS、パルミコート吸入液R)のみです。pMDIはフルチカゾンプロピオン酸エステル(FP、フルタイドエアゾールR)、ベクロメタゾンプロピオン酸エステル(BDP、キュバールエアゾールR)とシクレソニド(CIC、オルベスコインヘラーR)があります。DPIはFP(フルタイドロタデイスクR、フルタイドデイスカスR)とブデソニド(BUD、パルミコートタービュヘラーR)があります。また気管支拡張薬である長時間作用性β2刺激薬と吸入ステロイド薬が配合されたサルメテロールキシナホ酸塩・フルチカゾンプロピオン酸エステル配合剤(SFC)のpMDI(アドエアエアゾールR)とDPI(アドエアデイスカスR)があります。
吸入された薬剤が肺内の標的部位に効率よく吸着される粒子径は6μm未満と言われています。吸入ステロイド薬の平均粒子径と肺内沈着率は、pMDIではフルチカゾンに比べてベクロメタゾンとシクレソニドの粒子径が小さく肺内沈着率も約50%と優れています。またDPIではフルチカゾンよりBUDの方が粒子径は小さく、肺内沈着率も2倍程度高率です。しかしながら吸入速度を調べるとFPデイスカスの方がBUDタービュヘラーより低年齢で吸入しやすいようです。またブデソニド吸入液はネブライザーと言う吸入器を使って霧状にして吸入します。ネブライザーの性能は様々ですので購入するときは注意してください。
長期管理薬物療法プランを進めるにあたっては、まず重症度を判定しそれに応じた治療ステップから年齢を考慮した基本治療を開始します。ガイドラインが改訂されるに当たりJPGL2008以降に新たなICSが増え、それぞれの薬剤について用量を設定する必要がでてきました。今回改訂されたJPGL2012の長期管理薬物療法プランを表2に示します。ICSを低・中・高用量に分けて用量対比表が掲載されています。この注意点としてJPGL2012での用量対比表におけるフルチカゾン(FP)、ベクロメタゾン(BDP)とシクレソニド(CIC)の高用量は、小児での適応範囲を超えていることです。ICSは投与量が増えると効果も増してゆきますが、投与量が多くなりすぎると増量効果が乏しくなり副作用が増えることもわかっています。
吸入機器の種類と吸入するときの留意点
ネブライザー

長所は、

(1)乳幼児を含めどの年齢でも用いることができる。
(2)通常の呼吸で吸入することができる。
(3)薬液量調整が容易である。

短所は、

(1)装置が大きく携帯に不便である。
(2)高価。
(3)使用に時間がかかる。
(4)薬剤の種類が限定される。
(5)電源が必要。
(6)騒音など
があげられます。

ネブライザーを用いた吸入方法のポイントと注意点を示します。
ネブライザーを用いた吸入方法のポイントと注意点

1.マウスピースを用いる場合

(1)口呼吸で安静換気をする。
(2)ネブライザーへの唾液の逆流に注意し、時々器械を止めて唾液をティッシュなどに吐き出す。または唾液トラップ(パリ社)を使用する。
(3)鼻呼吸をしてしまう場合には、ノーズクリップをする。

2.マスクを用いる場合

(1)マスクを顔にできる限り密着させる。
(2)泣かないように心がける。本を読んだり、ビデオを観ながらなど落ち着かせる。
(3)吸入後には、顔についた薬液を拭き取る。

3.注意点

(1)吸入ステロイド薬の吸入終了後は、うがい(あるいは飲水)を行う。
(2)ネブライザーの機種、吸入容器の性能には差があるため噴霧された薬剤の粒子径や時間が異なる。また手入れの仕方を十分理解する。
(3)電源が必要になるため旅行、災害時に備えてpMDI、DPIなども使用できるよう準備する。
ブデソニド懸濁液は泡立てない程度に揺り動かして粒子を再懸濁させるマウスピースを口でくわえて吸入するときは、唾液の逆流に注意して実施します。鼻呼吸となってしまう場合は、フェイスマスクでの吸入をお勧めします。

定量吸入器
定量吸入器としてはガスを用いて噴霧する加圧噴霧式定量吸入器(pressurized metered-dose inhaler:pMDI)と粉末を自発呼吸で吸うドライパウダー製剤定量吸入器(dry powder inhaler:DPI)があります。

長所として

(1)小型で軽量、携帯に便利。
(2)費用負担が少ない。
(3)吸入に時間がかからない。
(4)電源不要。
(5)騒音がないこと

があげられます。

短所としては

(1)吸入手技の習得が必要。
(2)吸入が不確実な場合がある。
(3)年少者では使用が難しい。
(4)量の微調整が不可能。
(5)安易に反復し過量投与に陥る危険性があることです。

pMDI吸入手技の指導ポイントと注意点を以下に示します。pMDIは管の底を上から押して噴霧するため、ある程度押す力が必要です。直接法は、口で吸入器をくわえて息を吸い込みながら同時に押して吸入する「同調」が必要であり、できるだけスペーサーの使用をお勧めします。

pMDI吸入手技のポイントと注意点

1.初めて使用する場合は、ボンベがアダプターにしっかりはまっているかどうか確認するため、試し押しを2回行う。
2.キャップをはずしてから容器をよく振る(キュバール、オルベスコは必ずしも必要ない)
3.息を吐き出した状態で舌を下げて、喉を拡げた状態になるようにする。
4.アダプターを歯で噛んで、噛んだ歯の隙間から空気も同時に吸入できるように唇を少し開ける。
5.息を深くゆっくり吸い込み始めたらすぐにボンベの底を1回強く押す(吸気時間約3秒)。
6.息を吸い込んだ状態で、3秒以上、息を止める。そのあと息をゆっくり吐く。
7.2回以上の吸入をする場合は最初の吸入終了後、続けて3〜6の手技を繰り返す。
8.吸入後にうがいをするか、又は飲水する。
9.注意点
(1)カウンターが無いものは吸入回数がわからなくなるため、使用開始日を容器に記入するとよい。
(2)噴霧と同調できていない場合は、スペーサーを用いるように指示する。
(3)ボンベを外してから容器(デバイス)を水洗いして清潔に保つ

スペーサーを用いたpMDI吸入方法のポイントと注意点を以下に示します。スペーサーを使用するメリットは、吸入時に同調が不要であり、直接噴霧する際に生じる刺激感、吸入による吐き気や咳を防ぎ口腔や咽頭への薬剤沈着を減らすため、局所副作用の発現が少なくなります。また吸入後の息止めを行うと肺への薬剤沈着率が向上します。プラステイック製では、エアロチャンバー・プラスとオプテイヘラーがありますが、静電気により噴霧した薬剤がスペーサーへ吸着されるため、使用前に食器用洗剤にて洗浄しよく乾燥して使用します。またアルミ製のボアテックスは静電気が生じにくく扱いやすくなっています。乳幼児から低学年の学童にはマスク付きスペーサーがよいでしょう。
スペーサーを用いたpMDI吸入方法のポイントと注意点
1.初めて使用する場合は、ボンベがアダプターにしっかりはまっているかどうか確認するため、試し押しを2回行う。
2.薬の容器(カニスター)をよく振る(キュバールR、オルベスコRでは不要)。
3.カニスターのキャップを外してスペーサーに装着し、一押しする。
4.マウスピース付スペーサーを用いる場合
(1)息を吐いた状態でマウスピースを加えて口を閉じ、ゆっくり大きく吸入する。息を吸い込んだ状態で、3秒以上息を止めてからゆっくり吐く。
(2)1回で吸入しきれない場合には、再度吸入する。
5.マスク付スペーサーを用いる場合
(1)マスクを顔に密着し、安静換気を数回行う。
(2)エアロチャンバーではフローインジケーターの動きで期呼吸しているかを確認できる。他の機種では確認がしづらい。
6.注意点
(1)噴霧後は速やかに吸入する。
(2)2回以上の吸入をする場合は1押しごとに吸入動作を実施する。スペーサーにまとめて複数回を噴霧しない。
(3)吸入ステロイド薬では吸入後にうがい、あるいは飲水する。
(4)静電気を生じさせないように取り扱う
スペーサーを擦らない。食器用洗剤を用いて洗浄し自然乾燥させる。静電気がおきにくいスペーサー(ボアテックスなど)を用いる。

DPIは患児が息を「吸う」と「吐く」の動作を正しく行え、かつ吸入に必要な吸気流速を得られることが必要です。大体5〜6歳で理解できるようになりますが個人差もあります。DPIを用いた吸入方法の指導ポイントと注意点を以下に示します。BUDタービュヘラーは操作毎に貯蔵薬が1回分秤量されます。一方FPとSFCデイスカスは、フィックス・ドーズタイプで1回分の薬剤が始めから分包されています。適切な吸気流速が得られるかを外来で簡単に試す器具として、FP用デイスカストレーナーとBUD用タービュテスターがあり、これらを用いて吸入方法を練習してから実物を吸入すると良いでしょう。
DPIを用いた吸入方法のポイントと注意点
1. 薬剤の添付文書に従って、薬剤を充填し吸入できる状態にする
(1)ロタデイスク:デイスクを乗せたトレーを引き出し、再び戻してカチッと音がしたらデイスクが回転している。ふたを垂直に立てて閉じるとデイスクの上から下まで針が貫通し、薬が吸入できる状態になる。
(2)デイスカス:水平にしてカバーを開け、レバーをカチリと音がするまで押す。
(3)タービュヘラー:まっすぐに立てて持ち、茶色の回転グリップを右へ「クルッ」と回し、左へ「カチッ」と止まるまで戻す(初回だけこの操作を3回する)。
2.器具に呼気を吹きかけないように横を向いて息を吐き出し、吸入口をくわえて口を閉じ、力強く深く吸いこむ。
3.数秒間息を止めて、ゆっくりと吐き出す。吐き出すのは鼻からでも口からでも良い。吸入ステロイド薬の吸入終了後は、うがい(あるいは飲水)を行う
4.注意点
(1)医師から複数回の吸入指示がある場合には、1押し毎に吸入を行う。
(2)FPデイスカスでは甘味があるため吸入した実感が得られやすいが、BUDタービュヘラーは吸った実感が鈍いため吸えていないと思い込むことがある。
(3)清潔に保つため吸入口を拭き取る。容器(デバイス)全体を水洗いしない。

それぞれの吸入機器の特徴を理解し、正しい使い方を習得することが大事です。
次回は、吸入ステロイド薬に関する副作用についてお話します。

図1 吸入薬剤の肺内沈着量に影響する要因はこちらから
表1 小児適応のある吸入ステロイド薬の用法・用量と特徴はこちらから
表2 小児気管支喘息の長期管理に関する薬物療法プラン(基本治療)はこちらから

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2012年05月30日 16:17に投稿されたエントリーのページです。

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