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1 「気管支喘息とアレルギー性鼻炎・副鼻腔炎」第七回 〜吸入ステロイド薬の注意すべき副作用〜 てらだアレルギーこどもクリニック院長 寺田 明彦/メールマガジン67号

吸入ステロイド薬の効果は大変良く、概ね2週間程度で発作がなくなりコントロールが良くなります。そこで、中止したりせずにしばらく続けることが大切です。なぜなら、気管支喘息の気道炎症はちょっとやそっとではよくならない為です。したがって、発作が全くなくなっても、発作が起きないように予防する管理薬として続けることが肝心です。

さて、吸入ステロイド薬の副作用についてお話しします。よくアトピー性皮膚炎の患者さんや保護者の方に「ステロイドって怖い薬でしょ」と尋ねられることがあります。「どうして怖いのですか?」と聞き返すと、ほとんどの方がはっきりとした答えは持っていません。実は、「強い薬」→「得体のしれないもの」→「怖い」という認識ですね。まるで明治維新のときに現れた黒船に乗る外国人を「赤鬼」に例えたように、知識がないと恐れる気持ちになりやすいのでしょう。実はステロイド薬はとてもよく効く抗炎症薬です。また皮膚と違い、気管支の粘膜に対しては副作用が現れにくいと言われています。その差はまだ明確にはなっていませんが、どうも皮膚や気道粘膜に備わっている「自然免疫」の力が影響しているそうです。いずれにしても、まずどのような副作用があり、どうしたら防げるのかを知っておくことが不安や恐れを取り除く第一歩です。

ステロイド薬の副作用には、直接投与した気道に起こる「局所作用」と、吸収されたあと血液中に溶け込んで全身へ運ばれて影響する「全身作用」があります。そして、局所作用には咽頭症状(不快感、むせ、疼痛、刺激感、違和感)、嗄声(させい)が0.5〜2%の頻度で出現すると言われています。また発疹、じんま疹、口腔および呼吸器カンジダ症、味覚異常、咳、口内乾燥、感染症が0.5%未満で出現する可能性があります。この局所作用は吸入機器の種類によっても出現する頻度に差があります。例えば、DPI(ドライパウダー製剤定量吸入器)だと声がれ(嗄声:させい)や咽頭の不快感が起こりやすいです。この場合は、吸入機器をエアー剤へ変更することをお勧めします。口の中の頬の部分に白っぽい苔のようなものがついたときはカンジダ症(鵞口瘡)を疑います。抗真菌剤(フロリードゲルなど)を使用するとよくなります。特に哺乳瓶を使っている乳幼児で目立ちますので、哺乳瓶と乳首の消毒をまめに行ってください。これらの口腔内の症状の予防には、吸入後のうがい、またはお茶や水などを飲む、濡れたタオルで口腔内を清拭することをお勧めします。また、pMDI(加圧噴霧式定量吸入器)は口でくわえて直接噴霧する方法だと口の中に付着する薬が増えますが、スペーサーを用いると付着が減りますので、できるだけ利用することをお勧めします。

次に、全身作用は吸入後に肺から血管へと吸収された場合と、口腔内に付着した薬剤を飲み込み消化管から吸収される場合があり、いずれも血液に溶けた薬剤が他の臓器に運ばれて生じます。そして、ステロイド薬の全身作用の中でも副腎機能抑制と成長抑制が特に問題視されます。副腎機能抑制に関して、小児ではFP(フルチカゾンプロピオン酸エステル):400μg/日以上の使用で副腎機能不全の報告があります が[Toddら, 2002年 ]、今のところFP:200μg/日相当以下の使用量であれば概ね問題がないとする報告が多いです[Calpinら, 1997 年] [Visserら, 2004 年]。日本で行われた研究ですが、乳幼児喘息に対するBIS(パルミコート吸入液)の長期安全性検査では副腎機能低下が疑われた9症例において、詳細に検討を行ったところ臨床的に問題となるような副腎機能抑制や成長抑制は認めなかったそうです[西間三馨, 2008年]。さて、副腎機能抑制に関する興味深いこととして、Martin RJ らはFPを同じ用量投与したときpMDIの方がDPIより副腎機能値に影響したと報告しています[Martin, 2002 ]。つまり吸入機器の種類によって全身への吸収性(バイオアベイラビリテイー)が異なることがあと思われます。副腎機能抑制について知る方法は、血液検査で内因性コルチゾールを測定する以外ありません。継続的に吸入ステロイド薬を投与中に、感染症をきっかけに低血糖になったとか副腎機能不全になったとの症例報告を学会で目にします。幸い私は経験がありせんが、今後も注意して観察することが大事ですし、できるだけ最小限の吸入ステロイド薬で最大限の効果が発揮されるように投与することが肝心です。

次に、成長抑制は外因性グルココルチコイドが下垂体からの成長ホルモン分泌を抑制する阻害因子となるため生じると言われています。BDP(ベクロメタゾンプロピオン酸エステル):400μg/日投与の検討では対照と比べて1.5cm身長が抑制されたと報告されています[Verberneら, 1997年]。またCAMP studyでは、BUD(ブデソニド):400μg/日の吸入を4年間行ったところ身長の伸びが開始後1年間で1〜2cm程度抑制されましたが、4年間での合計身長には有意差が観察されなかったそうです。また他の研究では年余にわたるステロイド薬吸入によっても、最終身長は有意な抑制がなかったと結論されています[Agertoft, 2000 年]。しかしながら、学童期では8〜11歳が最も成長の遅い時期であり成長速度は年間5-6cmであるため、たとえ年間1.5cmの差でも25%の遅れとなります。一方、思春期や乳幼児期は成長速度が速く成長抑制の影響を受けにくい時期です。ICS(吸入ステロイド薬)の身長への影響は、性別、年齢、思春期の到来により個人差が大きいため、投与中は受診毎に身長測定し副作用の発現に注意することが大切です。
筆者は、この10年間で吸入ステロイド薬を止めなければいけないような副作用としては、口腔内カンジダ症、身長の伸びの抑制をそれぞれ数例経験しました。いずれの症例も抗真菌薬を投与しICSを一時的に中止して改善しています。こういった副作用を予防しながら、吸入ステロイド薬を上手に使い喘息発作をコントロールすることにより、生活の質を一層向上させることが大切だと思います。

今後、気管支喘息のコントロールを完全に達成するためには、ICSの適切な普及が鍵となるでしょう。プライマリケアで吸入ステロイド薬が浸透しない理由は、
(1)喘息の診断、重症度評価が難しく、アンダートリートメントになりやすい。
(2)吸入薬に関する医師の知識不足のため、適切な吸入デバイスを処方できない。さらに補助具を用いるなど吸入指導ができていないため効果にばらつきが生じる。
(3)特にジェットネブライザーは時間と手間がかかるため患者・保護者がなかなか続けられない。さらに吸入薬は忘れやすい。
(4)抗ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)が初めに投与され、喘息が軽症化していることなどが挙げられます。

もしICS導入後も喘息コントロールが得られなければ、まず吸入動作を目の前で実施してもらい手技を確認することが大切です。例えば、他院で3才の子供に対して処方されたpMDIを、直接吸入をするようにと言われたケースがありました。実際に実演してもらいましたところ、子供の吸気に合わせて母がpMDIをプッシュしていました。しかし子供は口を閉じたまま息をしてません。口を開けるとプッシュしたはずのエアーが吐き出さる始末です。この親子にはスペーサーを紹介し使用方法を説明したところ、その後みるみる元気な日常生活が送れるようになりました。

最後に吸入ステロイドを浸透させる為に必要な事は何でしょうか?

(1)切な吸入療法導入のポイントを医師が熟知する
(2)護師、薬剤師などコメデイカルと連携し吸入指導を行う
(3)入療法の良さをしっかり患者・保護者に理解するよう説明する
(4)医師が副作用を含めて安全性について最新情報を学び患者・保護者の不安にこたえるよう努める

以上です。

次回は、抗ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)についてお話しします。


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2012年06月26日 04:47に投稿されたエントリーのページです。

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