ロイコトリエンは、かつてSRS-Aと言われた物質です。遅発型アレルギー反応に関係しており、気管支収縮作用、血管拡張作用、血管透過性亢進作用による浮腫、そして好酸球の誘導による炎症の増悪に関係していると言われています。喘息患者では、気道、血液中、そして尿中にこのロイコトリエンが増加していることがわかっています。このロイコトリエンを抑制することができれば、画期的な治療となるはずです。
ところが、前回取り上げたステロイド薬はこのロイコトリエンの産生を抑制し働きを抑えることが苦手です。そこで登場したのが、ロイコトリエンの働きをレセプターレベルでブロックする薬剤である抗ロイコトリエン受容体拮抗薬(Leukotriene receptor antagonist: LTRA、通称「エルトラ」)です。1995年プランルカスト水和物(オノン)が登場しました。これは実は世界に先駆けて日本で開発され臨床に使われるようになったLTRAです。その後、2001年にはモンテルカストナトリウム(シングレア、キプレス)が登場しました。
私のクリニックに2012年3月受診した18歳未満の気管支喘息患者310例(男児196例)中、長期管理薬として吸入ステロイド薬を使用していたのは24.8%でした。一方LTRAは63.2%ととてもたくさんの患者さんに投与していました。さらに両者の併用は16.5%でした。今日、小児の喘息コントロールに最も多く使用されている薬はLTRAになっています。これは、吸入ステロイド薬の方は効果がある反面、上手にできなかったり、嫌がって止めてしまう患者が多いことを反映しています。つまり吸入療法は自主的に服薬(吸入)を行い、治したい気持ちが薄れアドヒアランスが悪いと言えます。それに比べ内服薬は服薬しやすいので比較的続け易い利点があるようです。
1. 小児喘息における早期介入の意義について
小児の気管支喘息の8割が3歳までに発症します。喘息で医療機関を初めて受診する乳幼児は、ほとんどが感染症、特にウイルスよる気道感染に伴って初めて喘鳴を来たした後、喘鳴を繰り返すようになり「喘息」と診断されます。このような喘鳴を引き起こすウイルスとしてはRSウイルス、ライノウイルスが多いと考えられます。乳幼児期は、ダニやほこりなどに対するアレルギーの関与(IgE抗体の証明)がはっきりとしていないことも多く、喘息様気管支炎と言われてきました。最近では「ウイルス誘発喘息」や「反復喘鳴児」などと呼ばれています。
また乳幼児喘鳴にはフェノタイプと言って、3つのタイプがあると言われています。1)一過性喘鳴群、2)非アレルギー型喘息群 3)アレルギー型喘息群です。一過性喘鳴群は3歳までに治る患者さんです。主に、ウイルス感染によっておこります。肺の未熟性や受動喫煙などの影響を受けています。非アレルギー型喘息群は、ウイルスや細菌などの感染症によって繰り返す喘息のタイプです。IgEは陰性で、多くが6歳ごろになると自然に治ってきます。アレルギー型喘息は、主にダニ、ほこり、かび、ペットなどに対するIgEが陽性で、風邪や運動などによって症状が誘発されます。治りにくく中学校卒業までに80%が寛解になると言われていますが、大人になって再発する方もおられます。
喘息の診断は、@呼気性喘鳴(息を吐くときの喘鳴)が明らか。A気管支拡張剤であるβ2刺激薬の吸入にて喘鳴が消失する。BIgE陽性(食物抗原、ダニ、HDなど)である。C本人や家族のアレルギー疾患の既往がある。などを参考に診断しています。特に@、Aがあれば確実に診断できると思います。
この10年余りで、喘息発症後の重症化予防に関しての研究が盛んに行われています。吸入ステロイド薬やLTRAを発症早期の喘息患者に一定期間投与することで重症化を防げることがわかってきました。また、呼吸機能や肺の組織の変化を検討した結果では、発症早期の喘息のこどもでは、気道の炎症やリモデリング(組織の変化)が固定されておらず、完治(ガイドラインでは「寛解」と言います)する余地がまだ十分残っていると考えられます。したがって、喘息の適切な診断に加えて薬物を用いたより早期の治療的介入による重症化予防が大事になってきています。
2 LTRAの効果と安全性
@どのような患者にLTRAを選択するか
ガイドラインでは、どの年齢層でもステップ2基本治療の長期管理薬と位置付けられています。2歳未満はLRTA and/or DSCG(インタール(抗アレルギー薬))、2〜5歳はLTRA and/or DSCG and/or吸入ステロイド薬(低用量)、6〜15歳は吸入ステロイド薬(低用量)and/or LTRA and/or DSCGと記載されています。この順番をみると、5歳以下の乳幼児の軽症喘息では、常にLTRAがファーストチョイスとなっていることがお分かりになると思います。これは、LTRAと吸入ステロイドを比較検討した試験結果から導かれた使い方の「順番」です。例えば、月に数回発作を起こす喘息患者に対しての研究では、LTRAと吸入ステロイド(ブデソニド400μg/日)と比べ症状の増悪予防効果に差はありませんでした。中等症以上になると、やはり吸入ステロイド薬の方が効果は優れているという結論です。
実際、私は軽症から重症までどのレベルであったとしても、基本的な長期管理薬として処方しています。様々な調査でも小児喘息の実に約80%がLTRAを投薬されているという報告もあります。また、後で述べますが、喘息患者ではアレルギー性鼻炎の合併が多く、LTRAは鼻炎への効果も期待できるため、処方率が多くなっている結果でもあります。
オプションとして、長期間内服しなくても、季節的に増悪する患者さんや感冒のときに悪化する患者さんでは中期〜短期的に投与する治療法も考えられています。例えば、秋に季節的増悪を起こす小児喘息への投与を行った研究では、比較的低年齢の男子と年長児の女子に効果があったと報告されています。また、最近では感冒時の7日間程度の短期投与によって喘息増悪への進展を防げるという報告もあります。
実は、LTRAには気管支拡張作用も認められることがわかっています。IgE陽性の喘息ハイリスク患者では初回の喘鳴でも投与して急性期症状の緩和と、さらにその後の悪化を防ぐことも可能だと考えています。その他、特にLTRAを推奨する患者としてはウイルス喘息、低年齢、鼻炎合併喘息例です。これらはむろん重症度によりますが、LTRAがファーストチョイスだと思います。
LTRA投与後効果が現れるには1-2週間かかると言われています。しかし、興味深いことに投与後比較的早く効果が現われる患者さんが20%程度ほどおられます。ロイコトリエン合成酵素の遺伝子多型の研究により、ヘテロの遺伝子多型がある方は早期に効果があると言われています。このような方はLTRA内服してすぐに効果が実感できるため比較的スムーズに服薬していただけます。
A安全性:幸い私は副作用で中止した方を経験していませんが、報告では下痢などの消化器症状、アレルギー反応、そして最近では理由が不明ですが神経麻痺が報告されています。
B 各種LTRA製剤の特徴と使い分けについて
小児適応のあるLTRAとしては、メードインジャパンのプランルカスト、そして全世界で広く用いられているモンテルカストがあります。プランルカストはドライシロップとカプセルがあり一日2回の内服です。モンテルカストは細粒、チュアブル、錠剤と剤型がより豊富で一日1回と服薬の回数が少ないことが特徴です。飲む回数が少ないと患者とその保護者への負担も減り楽で良いですね。プランルカストドライシロップは他の薬剤と混合調剤が可能ですから組み合わせがしやすいメリットがあります。最近、両者ともアレルギー性鼻炎注)の適応が認められました。これまで、アレルギー性鼻炎で特に鼻閉がつよいタイプには効果があります。
注)オノンドライシロップは小児のアレルギー性鼻炎に適応が承認されました。モンテルカスト錠が成人(13才以上)でアレルギー性鼻炎に適応が承認されました。
3. 初めてLTRAを服用する喘息児・家族に対する説明は?
喘息は症状の悪化を予防できる病気です。LTRAは心配される副作用が極めて少なく安心して飲んでいただける薬です。また夜間の喘息症状を予防する目的で就寝前に投与しています。しかし、夜早く寝てしまい内服できなかったときは、翌日の朝に服用していただいています。もちろんその日の夜はいつも通り内服していただきます。投与期間は、ガイドラインでも言われているように3か月程度を目安に減量中止を考えます。また感冒時間欠投与法や季節性喘息の方へは特に秋になる前から投与しておくと予防できると思います。飲みやすく使い勝手の良い薬剤ですので、小児でのファーストチョイスとしておすすめしています。
次回は、環境整備 アレルゲン対策についてお話しします。