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1 「気管支喘息とアレルギー性鼻炎・副鼻腔炎」第十一回 〜気管支喘息とアレルギー性鼻炎〜 てらだアレルギーこどもクリニック院長 寺田 明彦/メールマガジン71号

気管支喘息に合併するアレルギー疾患の中で、アレルギー性鼻炎は53%と最も高いことが特徴です。小児気管支喘息とアレルギー性鼻炎はともに年々増加してきましたが、特にアレルギー性鼻炎は花粉症とともに増加が著しいアレルギー疾患です。西日本地方で小学校児童を対象に行ったアレルギー疾患有病率調査(1992年→2002年)によると、10年間で気管支喘息4.6%→6.5%、アレルギー性鼻炎15.9%→20.5%、スギ花粉症3.6%→5.7%へといずれも増加しています。
アレルギー性鼻炎は、症状として鼻水、鼻閉、くしゃみ、むずむずする痒みに伴い小児では特に鼻こすり、鼻ほじりが目立ちます。鑑別診断としてWHOが発行しているARIA2008に掲載されているポイントを記載しておきます。


鼻アレルギー診療ガイドライン2009年版(鼻炎の鑑別)には、鼻腔内を観察し、鼻汁の性状や鼻粘膜の腫脹と色調により、鼻炎の鑑別診断が書かれています。それによると、透明な鼻水を伴い鼻粘膜が蒼白(青白い)かつ腫脹しているときは、ハウスダストやダニによるアレルギー性鼻炎を疑います。また鼻粘膜が赤くて腫脹している場合は花粉の飛散期を考慮してスギ、ブタクサ、カモガヤなどの花粉症を疑います。さらに鼻水が青かったり、緑色だったり、黄色かったりしてドロドロしたときや、咽頭に鼻水が落ちてくる後鼻漏を伴う場合は、感染性鼻炎や副鼻腔炎を疑います。

次に客観的な目安として細胞診があります。鼻粘膜を綿棒でこすって取った鼻水をスライドグラスに塗って細胞染色をしたあと、顕微鏡で好酸球と好中球を観察し比率を調べます。アレルギー性鼻炎では好酸球が増えていますから診断の有力な情報になります。感染症による鼻炎や副鼻腔炎を合併している時は、好中球が増加します。その場合は、鼻汁培養を行い原因となっている細菌を調べ、抗生物質を投与します。小児では肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラキセラ菌が検出され、同定した細菌の薬剤感受性に応じて抗生物質の変更を行っています。
アレルギー性鼻炎の治療薬として、まず選択するのは第二世代抗ヒスタミン薬です。ヒスタミンという化学伝達物質の働きを抑える薬です。鼻水、くしゃみ、掻痒感によく効きます。風邪薬に入っている第一世代の抗ヒスタミン薬は、副作用として口渇、眠気などが強く問題でした。例えばマレイン酸クロルフェニラミン(ポララミン)は、成人で規定量を内服するとウイスキーのストレートを3杯飲んだのと同程度の作業効率の低下を招くと言われています。これを、インペアードパフォーマンスと呼び、無意識化におこる作業能率の低下が問題となっています。子供でも当然、同様に副作用として眠気や学習能力の低下を招く可能性を指摘されており、これを解決すため薬剤の改良がおこなわれ、現在では脳の中に移行することが少ない薬剤として第二世代抗ヒスタミン薬が登場しています。
次に、最近では抗ロイコトリエン拮抗薬が小児でもアレルギー性鼻炎に対して保険適応となりました。この薬剤はすでに気管支喘息に対する効果が認められており、副作用も少なく安全な薬剤です。鼻づまりがある鼻閉型の患者によく効きます。副作用は少なく安全性も認められています。
図に小児適応になっている薬剤をあげながら治療方針を示します。重症度に応じて薬剤をプラスして併用します。第二世代抗ヒスタミン薬の中には1日1回投与のものと2回投与する薬剤があります。そして、鼻閉型には抗ロイコトリエン拮抗薬や点鼻ステロイド薬が効果をもたらします。もちろん、原因となっている、アレルゲンであるほこりやダニなのどの回避、除去対策、マスクや空気清浄器などの活用も大切な治療の一つとしてお勧めします。


One airway, one disease(ワン エアウエイ・ワン デイシーズ)

鼻腔から咽頭・喉頭へ続く上気道と気管・気管支そして肺胞へ至る下気道は、構造上共通の特徴を持っています。喘息患者の鼻粘膜および気管支粘膜には好酸球性炎症を認めます。さらにCD4陽性Tリンパ球、線維芽細胞やコラーゲンなど種々の蛋白質が増加しています。そして鼻炎患者の気管支内へ抗原吸入誘発試験を行うと気道収縮を引き起こす場合があることが報告されています。このような事実から、気管支喘息とアレルギー性鼻炎は共通点の多い気道疾患として「one airway, one disease」と呼ばれています(ARIA:Allergic Rhinitis and its Impact on Asthma:2008日本語版)。
では、どのようにして鼻炎・副鼻腔炎が下気道に影響するのでしょうか。
そのメカニズムとして、

(1)鼻腔への刺激による気道収縮(鼻・気管支反射:nasal-bronchial reflex)がおこる。
(2)炎症性細胞やメディエーター(化学伝達物質、刺激物質)を含んだ鼻水が下気道へ流入する(後鼻漏)。
(3)炎症性細胞やメディエーターが鼻局所から体循環へ移行し肺へ到達する。
(4)上気道で産生されたサイトカインが骨髄に作用し好酸球などの炎症細胞を活性化する。
(5)鼻閉により吸気の濾過、加湿、保温作用が減弱することなどが考えられています。

したがって、気管支喘息に合併するアレルギー性鼻炎も同時に治療してゆく必要性があります。鼻が悪いと、鼻呼吸が障害されます。すると、口呼吸となってしまいます。鼻本来の役目である、加湿と異物除去フィルターの役目が果たせず、乾燥した空気を吸うため、喘息発作が起きやすい状態になってしまいます。さらに、小児気管支喘息患者に対して吸入ステロイド薬など抗炎症療法を行っても十分改善しない「長引く咳嗽」を認めた場合は、鼻汁中細胞診やレントゲン検査を行いアレルギー性鼻炎・副鼻腔炎が合併していないか鑑別が必要です。アレルギー性鼻炎には抗ヒスタミン薬やステロイド点鼻薬を用います。さらに副鼻腔炎の治療には少量マクロライド療法など抗生剤による治療が有効です。また、鼻汁吸引や鼻洗浄(鼻腔を生理食塩水などで洗うこと)など局所処置も合わせて行うと効果的です。

次回は最終回となります。
喘息治療の「リアルライフ(現況)」と今後の喘息治療について夢を語りたいと思います。


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2012年10月31日 10:50に投稿されたエントリーのページです。

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