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1 「気管支喘息とアレルギー性鼻炎・副鼻腔炎」第十二回(最終回)〜喘息治療の「リアルライフ」〜 てらだアレルギーこどもクリニック院長 寺田 明彦/メールマガジン72号

早いものでもうすぐ年の瀬です。最初は6回程度というお話でお引き受けしたメールマガジンですが、回を重ねて延長させていただきました。お付き合いいただいた皆さんにお礼を申し上げます。今回で最終回となりました。

さて、最近、喘息患者実態電話調査であるAsthma Insights and Reality in Japan (AIRJ)2011が報告されました[足立 満 他:アレルギー・免疫 2012:19(10)]。これは、全国の登録世帯(264,000世帯)対象にランダム(無差別)に電話インタビュー調査を行ったものです。それによると、スクリーニング協力世帯13,236のうち喘息あり955世帯でした。さらにこのうち協力了承世帯800(成人400、小児400)で調査されました。小児の調査で得られた結果をみると、男子が65%と3分の2を占めており平均年齢は8.8歳でした。喘息重症度は軽症間欠型(発作が年に数回)58%、軽症持続型(発作が月に数回)23%、中等症持続型(発作が週に数回)15%、重症持続型(発作がほぼ毎日)4%でした。家庭内喫煙者あり45%と受動喫煙が半数近くありました。最近1ヶ月間に喘息症状を経験した患者の割合をみると、
(1)日中38%、(2)夜間26%、(3)スポーツなど身体活動中30%

と(1)〜(3) いずれかに該当する場合は60%にも上りました。また、最近1年間の入院4%、救急治療5%、医療機関への予定外受診56%、学校や園の欠席 42%と入院こそ少なくなりましたが、予定外に受診や学校などの欠席も多く認めていることがわかりました。喘息が妨げる社会生活上の活動の中では、睡眠40%、スポーツおよびレクレーション32%、ライフスタイル20%、社会活動15%、通常の身体動作10%の順で多く、いずれかに該当するケースが52%も認めています。つまり、喘息治療を行っていても、多くが何らかの生活の質QOLを妨げられているとわかりました。さらに治療として吸入ステロイド薬の使用率は20%でした。

そして吸入ステロイド薬を中断した方の理由を聞いたところ、

(1)症状がなくなったので66%、
(2)発作がおさまったので36%、
(3)医師の指示29%、
(4)他の薬に変わった5%、
(5)薬を長期間のみたくなかったので3%でした。

つまり自己判断で吸入ステロイド薬をやめてしまう方が圧倒的に多いことがわかりました。

この調査では、小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2012の治療目標についてAIRJ2011に照らし合わせて現状を評価しています。

(1)昼夜を通じて症状がない →最近1ヵ月間に喘息症状がなかった40%、
(2)ピークフロー(PEF)やスパイログラムがほぼ正常で安定している →ピークフローメーターを知っている29%、ピークフローメーターを 週に1回以上使用している1% 、肺機能検査を受けた16%、
(3)気道過敏性が改善し、運動や冷気などによる症状誘発がない、およびスポーツも含め日常生活を普通に行うことができる→最近1ヵ月間の身体活動中に喘息症状がなかった 70% という結果でした。

AIRJ2011から喘息患者の実態「リアルライフ」としてまとめると、

(1)我が国のガイドラインでは、「健常人と変わらない生活」という治療目標が掲げられているが、現在のコントロール状況は決して十分とはいえない。

(2)吸入ステロイド薬は一定の普及が示唆されるが、治療の基本治療薬であることをふまえれば、更なる普及が求められる。喘息は慢性疾患であり、長期コントロールが必要であるにもかかわらず、患者の自己判断による服用中止がみられる。これを踏まえて、よりよい喘息コントロールを目指して行動することが大事だと知りました。
これまでは、医師の指示を順守する患者であることを指す「コンプライアンス」が問われていました。これはともすると医師が上から目線で「言いつける」という姿勢になってしまいがちで、患者が治療意欲をそがれ受け身になってしまい治療効果が上がらないことがありました。これとは違い、患者が主体的、積極的に治療に取り組めるような能動的な治療行動を実践することを指す「アドヒアランス」が重要であることがわかり、このアドヒアランスを向上させることが大事だと思います。つまり、患者が治そう、治ろうという意欲が治療効果を上げ、そして患者が良くなってゆくことが導ける診療姿勢が医師を始め医療従事者にとって大事なんだということです。遊び盛りの子供ですので、学校や園から帰宅したあとクリニックというあまり好みでない場所に出かけるのは嫌でしょうね。そのような貴重な時間を費やしても受診していただける、患者と保護者が頼れる病院やクリニックであることが、ひいては患者と医療者の信頼関係を育み、より良い医療が実践できると感じます。
しかし、日本の病院やクリニックの外来診療では、失礼な言い方ですが患者を「さばく」というような繁忙極まりない外来です。一時期「5分ルール」というのが診療報酬にあり、5分間患者を診る時間をかければ算定できる報酬がありました。たったの5分ですが、それでも医師は必死になって丁寧な診療と説明に努力したものです。この算定基準はなくなりましたが、たったの5分しかかけられない外来診療ではどうしてもお伝えできない内容や説明不足が生じてしまいます。これを改善するためには、看護師、薬剤師、栄養士、事務スタッフも併せたコメデイカルの協力が不可欠だと感じます。
日本小児難治性喘息・アレルギー疾患学会では、医師ばかりではなく小児アレルギー疾患に携わる看護師、薬剤師などコメデイカルと患者家族会の方々が学会を通じてより良いアレルギー診療を目指しています。この会では日本小児難治喘息・アレルギー疾患学会認定小児アレルギーエデュケーター制度を作り、アレルギー専門ナースを育成しています。その総則第一条に目的が書かれています。「小児の喘息・アレルギー疾患の治療においては医師のみならず、多くの職種の協力が必要である。日本小児難治喘息・アレルギー疾患学会は、小児アレルギー疾患の医療を十分に実施し、広めていくことのできる人材を育成し認定することによって認定されたものが十分に実力を発揮し、成長を続けられるように支援することで喘息・アレルギー疾患の医療が向上することを目的に、日本小児難治喘息・アレルギー疾患学会認定小児アレルギーエデュケーター制度を実施する。」とあります。

 今後の喘息を含めたアレルギー疾患の診療は、ますますニーズが高まると思います。解決しなければならない課題は山積しています。実際使える喘息長期管理薬をどのような患者に対してどう使えばよいのか、また副作用ない予防薬の研究と開発やアレルギーマーチをきたさないように、発症を予防する方法の確立なども重要です。今後も、アレルギー学の発展と患者家族のQOL向上、そして治癒と発症予防を目指した治療方法の確立に取り組みたいと思っています。
 では、寒さも一段と厳しくなってきます。今年は喘息を悪化させるRSウイルスやマイコプラズマ感染症が過去に例をみないほど流行しています。また、これからはインフルエンザウイルスの季節を迎えます。皆様のご健康とご多幸を心からお祈りしつつ、最終回をこれで終えます。

文責 てらだアレルギーこどもクリニック 院長 寺田明彦


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2012年11月29日 20:13に投稿されたエントリーのページです。

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