みなさま、いかがお過ごしですか。前回書きましたように、秋に生じる気管支喘息の悪化にはライノウイルスなどの呼吸器感染が関与しますが、喘息に影響を与えやすいウイルスは年齢によって異なります。例えば、低年齢ではRSウイルスが関わる例が多く、このウイルスは喘息発症にも影響するウイルスとして知られています。
RSウイルスはRespiratory syncytial virusという名前のウイルスで、私たち人間が唯一の感染源です。1歳までに半数以上が、2歳までにほぼ100%の人がRSウイルスに1回は感染すると考えられています。潜伏期間は2〜8日で、せき、鼻水などが2〜3日続いた後に、感染が細気管支に至った場合には浮腫と分泌物などにより細気管支が狭くなる細気管支炎となり、喘鳴などの呼吸苦症状がみられます。感染経路は飛沫や、呼吸器からの分泌物で汚染された手指や物品を介した接触が主なものです。感染力が強く、何度も感染を繰り返しますが、年長者が再感染した場合には典型的な症状がみられずにRSウイルス感染症と気付かれない軽症例も多くみられます。このような特徴により、軽症の上気道炎症状(カゼ症状)の年長者が感染源となった、家族内感染や保育施設内の集団感染も生じます。RSウイルスの感染対策には手洗いや症状がある場合はマスクをすることが有効になります。
さて、RSウイルス感染症と喘息発症の関係については、1990年代以降に複数の調査がされてきましたが、そのほとんどの報告で、乳幼児のRSウイルス感染と喘息発症との関連性があるとされています。YamadaらはRSウイルスの感染によって気道の表面に傷がつくこと(気道上皮傷害)が、さまざまな炎症性の物質が体内で作用しやすい環境をつくり、気道過敏性を高めて喘息の発症に至る可能性を示しています。しかし、RSウイルス感染の全例が喘息発症に至るわけではありません。Singhらによると、RSウイルス感染、タバコの煙などの環境因子、喘息の家族歴などの遺伝因子、さらに感染時の発育段階などの条件が相互に作用して、RSウイルス感染が細気管支炎で終わらずに喘息に進展すると考えられています。
国内では感染症法によって、主要な感染症の発生動向を毎年調査し、感染症対策をしています(このような医学分野を公衆衛生学といいます)。RSウイルス感染症の発生数は全国の小児科定点医療機関から報告されていますが、この報告数は毎年冬にピークとなります。今年は、2003年以降の最多報告数を更新していますので、ニュースなどでRSウイルスが流行しているという話を聞いた方もいらっしゃると思います。この発生報告の診断基準には症状とウイルスの検査(分離・同定、迅速診断キットによる抗原検出、血清抗体検出による病原検査)が必須とされています。医療機関で多用されている迅速診断キットの医療保険適用が2011年10月から拡大され、外来受診した乳児、シナジスの適応患者も適用となりました。今年の報告数増加の背景には、このような検査をしやすくなった環境も影響している可能性がありますが、今がRSウイルスの流行時期であることにはかわりありません。好き嫌いなく食べて栄養補給をしたり、手洗いをするなどの感染予防に留意しましょう。
参考文献:
van den Hoogen BG et al. Nat Med 7;719-724 (2001)
Singh AM et al. Am J Respir Crit Care Med 175;108-119 (2007)
Yamada Y et al. Allergol Int 59;1-20 (2010)
岡部信彦監修 最新感染症ガイド(Red Book 2009, 28th Edition)
吉原重美 小ア誌 24;659-668 (2010)