みなさま、いかがお過ごしですか。このメールマガジンを読まれている方の中にも、一部の果物を食べると口がかゆくなる口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome, OAS)をもつ人がいらっしゃるかと思います。今回は、今が春のシーズンの真っ直中である花粉症との合併でも知られるOASをテーマにしました。
OASの主な症状は果物や生野菜などの原因食物を摂取した直後から始まる口や咽喉頭のかゆみ、刺激感などの自覚症状で、多くの場合は自然に軽快します。特定の花粉と食物に含まれる成分の間にみられる交差反応性が発症に関わるため、多くの場合は花粉症を合併しています。OASの治療の基本は原因食品の除去ですが、加熱によって低アレルゲン化されやすいため、多くの場合は加熱加工により経口摂取が可能になります。
花粉と食物の交差反応の組み合わせが明らかになっていますが、最も研究されている抗原の一つはシラカンバ(シラカバ)花粉のBet v 1ではないでしょうか。植物は病原菌や環境変化などのストレスを受けると、生体防御タンパク質を生成します。植物が病原菌の感染に抵抗してつくる生体防御タンパク質は感染特異的タンパク質(pathogenesis-related protein)と呼ばれ、その一つであるPR-10はBet v 1と構造が類似しており、バラ科のリンゴ、西洋ナシ、サクランボ、モモなどによって生じるOASに関与しています。また、シラカンバ花粉抗原のBet v 2が関与するアレルギー症状は一部の例に限られますが、植物に広く分布するプロフィリンに属するため多種類の果物や野菜との交差反応の原因となります。
さて、シラカンバは植物学的にはブナ目に属し、国内での自生地域は本州中部より北の高原という限られた範囲になります。ところが、ブナ目間に共通抗原があるため、シラカンバの自生しない地域でもブナ目のハンノキ花粉に感作されることでバラ科の果物などに対するOASを示す可能性があります。ハンノキは日本全国に分布しており、花粉飛散時期はスギと類似するため鼻炎症状の時期だけで診断するのは難しい場合があります。これではハンノキは「厄介者」扱いされそうですが、ハンノキの存在が私たちにとって役立つこともあります。
ハンノキの根にはフランキアという放線菌が共生しており、空気中の窒素をアンモニアに変えてハンノキの成長に利用しています。窒素分が少ない「やせた」土地では、フランキアが共生する植物が最初に育つことで周囲の土壌に窒素養分を供給し、他の樹木が生育できる環境をつくります。さらに、フランキアなどの窒素固定バクテリアが作り出したアンモニアは食物連鎖によって動物にわたっていきます。ヒトの体内の窒素原子は、計算上、半分以上は窒素固定バクテリアに由来しています。
参考資料:
Amlot PL et al. Clin Allergy 17;33-42 (1987)
Eriksson NE et al. Allergy 42;205-214 (1987)
Maeda Y et al. Allergol Int 57;79-81 (2008)
九町健一 生物工学会誌 91;24-27 (2013)