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1 「アレルギーのおはなし」第九回 〜PM2.5と気管支喘息〜 あいち小児保健医療総合センター 佐々木渓円/メールマガジン76号

 みなさま、いかがお過ごしですか。春になり穏やかな日射しとなりましたが、太陽光により空中に舞っているホコリに気づくことがありますね。このホコリのように、気体中に分散している固体や液体粒子をエアロゾルとよびます。エアロゾルはサイズで分類できますが、隣国の大気汚染で注目されたPM2.5は粒子径で分類したエアロゾルの名称です。
 PM2.5とはParticulate Matter 2.5の略称で、2.5は2.5マイクロメートル(μm)を意味します(マイクロメートルは0.001ミリメートル)。直径が2.5μm以下の粒子と主な報道では説明されていますが、空気力学径によるものなので、正確には直径2.5μmより大きい粒子の一部を含みます。サイズによる分類ですので構成成分は生成源により異なります。私たちがエアロゾルを吸い込むと気管支、肺などに沈着しますが、全体的な傾向としてはサイズが小さくなるほど肺の奥まで到達します。
 PM2.5の国内環境基準(以下単位はμg/立方メートル)は年間平均15、1日平均35で、さらに、今年2月に注意喚起のための暫定指針が示されました(レベルI:1日平均≦70、1時間値≦85、レベルII:1日平均>70、1時間値>85)。レベルIの行動のめやすは「行動制限不要。高感受性者は体調変化に注意」することで、レベルIIでは「不要不急の外出や屋外での長時間の激しい運動をできるだけ減らす。高感受性者は体調に応じて慎重に行動」するとされています。
 この高感受性者に含まれる小児については、PM2.5の気管支喘息への影響が複数の研究で明らかにされています。南カルフォルニアで実施された調査では、PM2.5濃度が1μg/立方メートル増加するのに対して、気管支喘息の有症率は9%上昇しています。オランダの調査では、PM2.5濃度が3.3μg/立方メートル増加する場合に、4歳までの気管支喘息の発症は32%増加していました。一方、PM2.5は屋外のみに存在する物質ではなく、屋内PM2.5濃度に注目した日本の報告では、呼吸機能や朝・夜間の喘息症状にPM2.5濃度が影響していることが示されています。
 さて、実は、北京のPM2.5値と同等の場所が私たちの身近にも存在しています。タバコの煙はPM2.5であるため、喫煙可能な居酒屋や特急車両の喫煙席のように比較的閉鎖された喫煙可能な空間では、PM2.5濃度が北京の大気中濃度に匹敵するレベルまで上昇します。さらに、分煙店舗の禁煙席に漏れてくるPM2.5濃度も注意喚起のための暫定的指針値を超えることが多々あります。この受動喫煙リスクに対するために世界170以上の国が締約した「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(FCTC)」では、建物内を100%完全禁煙とする受動喫煙防止法の成立と施行を求めています。2006年にスコットランドで施行された受動喫煙防止法により、施行前に年率5.2%で増加していた気管支喘息による入院が、法施行後に平均18.2%の減少を示しており、FCTCの考え方は気管支喘息のコントロールにも有効といえるでしょう。
 日本は大気環境問題としてのPM2.5対策に成功しており、周辺各国に技術提供をすることが、各国の気管支喘息患者にとって有益な結果を結ぶと思われます。しかし、この機会に屋内のPM2.5対策としての受動喫煙問題も考えるべきではないでしょうか。FCTCに基づく受動喫煙防止法の施行期限は2010年2月であり、私たちの国は2004年6月にFCTC批准をしているにもかかわらず条約の内容を守る義務を果たしていない現状にあります。

参考資料:
Brauer M et al. Eur Respir J 29;879 (2007)
Gaudeman WJ et al. NEJM 351;1057 (2004)
Ma L et al. J Epidemiol 18;97 (2008)
Mackay D et al NEJM 363;1139 (2010)
Mc Connell et al. Am J Repir Crit Care Med 168;790 (2003)


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2013年03月29日 13:17に投稿されたエントリーのページです。

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