【皆様への感謝】
新年のめでたさも束の間、新型コロナウイルス感染症の急速な広がりで、心が晴れない毎日をお過ごしのことと存じます。しかし、アレルギー支援ネットワークのスタッフ一同、皆様方の積極的なご支援により勇気を与えていただき、コロナ禍の様々な困難に挑戦しています。今年も変わらぬご支援を賜りますようよろしくお願い申しあげます
【アレルギー大学の刷新】
アレルギー大学はアレルギー支援ネットワークの中核的な事業です。2006年に開設されて以来、食物アレルギーに関する専門的な知識を体系的に学ぶことができる全国唯一の市民講座として着実に発展してきました。そして、卒業生の多くが、食物アレルギーがあっても安心して食べることができる給食を実現するため日夜奮闘しています。志ある者同士が直に交流し学び合うことがアレルギー大学の大きな魅力ですが、コロナ禍にあってはそれが叶いません。しかし、私たちはアレルギー大学を中断するのではなく、インターネットを大胆に活用し、その長所を組み込んだインターネットアレルギー大学を開設しました。来期は3回目の挑戦になります。更なる発展を目指し、他にない充実した調理実習や意見交流の機会を創出したいと考えています。来年度の第17期アレルギー大学にもぜひご参加ください。
【怒!新型コロナウイルス対応】
昨年の理事長挨拶で、新型コロナウイルス対策が科学的合理性をもって遂行されれば、「科学的合理性を希求する思考が子どもたちや国民に深く浸透し、アレルギー分野においてもさらに明るい展望が開けるのではないか」と書きました。しかし、期待に反して、政府・自治体の場当たり的な対応に翻弄され続けています。有効な感染予防策を打ち出せないのに、招いてしまった感染爆発を迅速に鎮静化することなどできるはずがありません。大袈裟かもしれませんが、日本の将来に暗雲が立ちこめています。私が勤務する病院でも、当然のようにPCR検査キットの供給が滞ってしまい、発熱外来に支障が生じています(1月下旬)。感染爆発の真只中にPCR装置が眠らされている事態に怒りを抑えきれません。
【新型コロナウイルスワクチンとインフォームド・コンセント】
この春から5〜11歳の子どもたちへの新型コロナウイルスワクチンが始まります。いずれのワクチンも本人や保護者のインフォームド・コンセント(説明と同意)に基づいて実施されています。しかし、この年代の子どもたちは新型コロナウイルス感染に対するリスクが極めて低く、加えて新型コロナウイルスワクチンに対する副反応が十分に把握されていないことから、より慎重に利益とリスクのバランスを判断する必要があります。私は今年度のアレルギー大学の特別講座で、インフォームド・コンセントの成立要件として、第1に、医療側が同意文書に基づいて適切な説明を行うこと、すなわち、患者側が「利益>リスク」などについて正しく理解したかどうかの確認が医療側に求められること、第2に、強制や情報操作などがなく患者側が自由意志で同意することを挙げました。新型コロナウイルスワクチンにおいては、医療側の主体は政府・自治体からの情報提供であり、患者側とは本人と保護者になると思います。インフォームド・コンセントを成立させるためには、新型コロナウイルスワクチンを接種しなくても、学校生活や社会活動で不利益を受けないという保証が明確に示される必要があります。また、「他の子も受けているから受けないわけにはいかない」といった浅薄な判断は厳に慎むべきです。この機会に科学的合理性を子どもたちに植え付けるためにも、質の高いインフォームド・コンセントを目指したいと願います。
【食物アレルギー診療ガイドラインの大幅改定】
食物アレルギー診療ガイドライン(日本小児アレルギー学会作成)が5年ぶりに改訂されました。5940円(税込)と安くはありませんが、成人領域の食物アレルギー情報が追加されるなど記述が充実しており、購入する価値は十分にあると思います。通読して、食物アレルギーの多様な病態をあらためて認識することができました。自分を含め、誰にでも食物アレルギーを発症する可能性があり、また、寛解したと思っていた食物アレルギーが何かのきっかけで一時的に再燃することも起こり得るようです。食物経口負荷試験に関しては、死亡事故はないものの重症アナフィラキシーが少なからず発生しており、安全性に配慮するよう、具体的な方法の紹介と合わせて入念な注意喚起がなされています。食物経口負荷試験は食物アレルギー診断のゴールドスタンダードです。それだけに医療側も患者側も「やって当たり前」と前のめりになりかねず、質の高いインフォームド・コンセントの成立を妨げています。双方ともに重症アナフィラキシー発生のリスクから目を背けてはいけません。私は、食物経口負荷試験を急がなくてもQOLを著しく損なうことはないと考えています(もちろんそうさせてはいけません)。こうした寛容さを共有することも必要ではないでしょうか。
【経口免疫療法・雑感】
今回の食物アレルギー診療ガイドラインでも、経口免疫療法は有用であるが、食物アレルギーの一般診療として推奨しないと明記されています。そして、経口免疫療法はあくまで臨床研究であり、倫理委員会の承諾を得て実施されるべきだと注意喚起されています。多くの医療施設で進行中の臨床研究の詳細を知りませんが、私が倫理委員だとすれば、経口免疫療法を食物アレルギーの一般診療に格上げするに足りるエビデンスを提供するための研究計画でなければ承認しないと思います。安全性を重視する国際的動向と、経口免疫療法を一般診療として推奨するに足るエビデンスを未だ示せずにいるわが国の現状から、従来の枠組みの経口免疫療法はますます緩徐化・長期化して、遂には「治療」の看板を下ろさざるを得なくなるのではないかと危惧しています。初めての食材をあれこれ口にし、馴染みの食材をさらに美味しく調理してたらふく食べる、こうした食の営みはかけがえのない喜びを私たちに与えてくれます。一方で、こうした食の営みには食物アレルギーや食中毒などのリスクが潜んでいることにも目を向ける必要があります。食の営みにリスクはつきものです。このリスクと、食物アレルゲンの摂取量を自宅で少量ずつ増やすことのリスクの間に境界線を引くことは容易ではありません。私は食の営みに付随するリスクを、食物アレルギー診療の場でも想起することは有意義だと考えます。
最後に、アレルギー支援ネットワークは引き続き科学的合理性に裏打ちされたアレルギー情報の啓発普及に取り組んで参ります。皆様からのいっそうのご支援ご鞭撻をよろしくお願い申しあげます。
認定NPO法人 アレルギー支援ネットワーク 理事長
日進おりど病院 小児科部長
坂本龍雄