和泉秀彦(いずみ ひでひこ)
(名古屋学芸大学管理栄養学部 管理栄養学科 准教授)
2.食物アレルギーの発症機構
食物アレルギーは、通常食べている本来なら人体にとって無害なものが引き起こす病気です。この食物アレルギーの発症機構を理解する前に、我々がもつ生体防御機構、つまり免疫のしくみを理解する必要があります。その中でも特に抗体が関与する体液性免疫を理解しておきましょう。
抗体が関与する体液性免疫とは、異物(細菌やウイルス)が体内に口や粘膜を通して侵入した際におこる抗体が関与する免疫応答です。侵入した異物はマクロファージなどの細胞によって貪食され無毒化されますが、その際に異物(タンパク質)の断片を細胞表面に出し、T細胞にその情報を伝達します。情報を受け取ったT細胞はB細胞を活性化して、B細胞は異物タンパク質の断片に対する抗体を産生するようになります。この抗体が、再度侵入した異物に結合して無毒化します。つまり、異物に対する抗体を産生することにより、我々は感染症などの病気から逃れることができるのです。しかし、この免疫応答がマイナスに働いてしまうとアレルギーを引き起こすことになるのです。B細胞が産生する抗体には5種類(IgM、IgG、IgA、IgD、IgE)あり、産生される抗体がIgGやIgAなら生体防御のほうに働いてくれるのですが、IgEを産生してしまうとアレルギーを引き起こすことがあるのです。
産生された2分子以上のIgEが肥満細胞に結合し、再度侵入した異物(アレルゲン)がその抗体と架橋することで、肥満細胞中に蓄積されていたヒスタミンなどの顆粒が細胞外に放出され、アレルギー症状が現れます。ここで、IgE自体は異物(アレルゲン)と結合するという抗体としての役割を全うしているだけにすぎませんが、その抗原抗体反応が生体にとってマイナスに働いてしまう結果がアレルギー症状として出てしまうことになります。IgEを産生しやすい体質は遺伝する可能性があり、親が何かのアレルギー、例えば花粉症などを持っていると、その子どもは花粉症とは限らず何らかのアレルギーになる可能性が高くなります。そこで、少しでも子どものアレルギーの発症を抑えるためには、タンパク質を多く含む食品の多量摂取は控えたほうがよいかもしれません。