« 1 「アレルギー情報見聞録」第6回 二村昌樹先生/メールマガジン50号 | メイン | 3 森さんの防災のおはなし 防災担当:森玲子/メールマガジン50号 »

2 「アトピー性皮膚炎と季節 第3回」三田哲郎先生/メールマガジン50号

「アトピーと温泉を巡る小話」

三田皮フ科クリニック 三田哲郎(さんだてつお)
前回、お風呂に入る際の注意点について触れましたので、今回は温泉に触れてみましょう。

全国各地に有名な温泉がありますが、遠くまで行かなくても、愛知県にも知多半島を中心に肌に良い泉質を持つ温泉があります。
では、具体的にどこが良いかまでは述べませんが選ぶヒントをお話ししましょう。

昔から我が国では、温泉を利用した病気の治療や農閑期に疲れを癒す湯治が行われてきました。
それは、日本人が温泉好きだからでしょうか。
それもありますが、実態はもっと切実でした。

今は国民皆保険制度があるため、病気やケガをしたら当たり前のように医者に診てもらうのが常識ですが、戦前、一般庶民は病気になってもめったなことでは医者にかかれず、がまんして自然に治るのを待つか、富山あたりの置き薬で様子をみたり、長期滞在型の湯治にでかけることが普通だったのです。
当然、それでは現在簡単に直る病気であっても、あっけなく命を落とす機会が多かったことでしょう。
ゲゲゲの鬼太郎の作者、水木しげる先生の自伝を読むと、水木先生の幼少期には葬式や人の死が本当に身近であったそうで、その時代には温泉は庶民にとって切実な治療手段であったわけです。

しかし、戦後は長期滞在型の湯治や、温泉保養はすたれてきました。長期滞在型の湯治の場合、米や味噌持参での自炊のできる宿泊施設が一般的でした
が、現代の温泉旅行は、一泊二日あるいは日帰りで豪華な食事付き観光旅行が基本であると思います。
したがって、ちょっと温泉に行く位では、病気が良くなることは考えないほうが良いのですが、アトピーのある方がたまに楽しみで行く温泉に入浴した後、夜布団に入るとかゆみが増して眠れない、引っ掻いて血まみれになる、などを避けるヒントにしてもらえば良いでしょう。

温泉に限らず、入浴の効果は、1)温熱による自律神経調節作用、2)水圧作用、3)浮力作用、4)洗浄作用があります。
1)温熱による自律神経調節作用は、42-44℃の高温浴の場合、交感神経が高まり眠気がとれて、リフレッシュする効果が期待されます。35-38℃の低温浴の場合、副交感神経が高まり精神的ストレスが和らぐとされています。
2)水圧作用によって全身の血行が良くなりますし、
3)浮力作用によって心身ともにリラックスすることができます。
4)洗浄作用により、皮膚の角層の老廃物や汚れ、細菌やカビがとれますので、アトピーには好都合です。
この場合、特に注意していただきたいのは泉質です。水道水の場合、保湿性が乏しいので、皮膚の角質層が弱っているアトピーの人は水道水で入れた風呂水に長くつかるとカサカサになりやすく、特に冬は要注意です。水道水は、塩素が消毒剤として含まれているのも困る点です。温泉で特に源泉100%掛け流し式の場合、塩素は原則含まれないはずです。水道水を足している温泉の場合は、塩素もその分含まれると考えるべきでしょう。

温泉水の泉質の刺激性については、アトピーの人にとっては硫黄成分を極力含まない泉質であることが望ましいです。しかし、実際には硫黄成分の多い泉質にもかかわらず、温泉の効能に皮膚病と書かれているものがあるのも注意してください。
戦前、皮膚病と言えば疥癬(かいせん、皮膚寄生性のダニです)が原因となったものが多く、硫黄成分がダニを殺すため、そう書かれているようです。
また、ニキビの一部には硫黄成分が有効なこともあるため、疥癬症とニキビに限っては、効能に含まれても良いのですが、アトピーを始めとする皮膚乾燥性の皮膚病には硫黄成分は避けた方が良いのでしょう。
皮膚乾燥性の皮膚病に良い泉質は何かと言えば、保湿性の高い成分が含まれたものだと思います。具体的には、ナトリウム・カルシウム塩化物泉や炭酸水素塩泉が良いと思います。ナトリウム・カルシウム塩化物泉は太古の昔、海の底であった土地が隆起してできた地層に沸いています。そういった泉質を有する温泉を探すヒントは、化石産地近傍にある温泉だということです。
先ほどの知多半島などは、海底の地層が隆起して出来たものですし、平湯温泉などもそうですが、化石が採れるところにある温泉です。
逆に草津温泉など、火山性の温泉は硫黄分が強く肌はカサカサになってしまいます。

寒い冬には自宅でお風呂が一番のご馳走です。
温泉の成分を考えながら、入浴したり、入浴剤を選んだりするのも冬の夜長を愉しむコツと言えるかもしれませんね。


About

2011年01月30日 22:36に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「1 「アレルギー情報見聞録」第6回 二村昌樹先生/メールマガジン50号」です。

次の投稿は「3 森さんの防災のおはなし 防災担当:森玲子/メールマガジン50号」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。