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2 「アレルギーのおはなし」第三回 〜アレルギー疾患と予防接種〜 あいち小児保健総合医療センター 佐々木渓円/メールマガジン70号

みなさま、いかがお過ごしですか。9月から不活化ポリオワクチン(ソークワクチン)が導入され、遅れていた日本の予防接種行政も少しずつですが動きつつあるようです。ということで、今回はアレルギー疾患と予防接種の話題にふれてみます。

まず、最初に結論を書きますと、ワクチンに含まれる成分に対するアレルギー性の副反応を完全にゼロにすることは難しいですが、アレルギー疾患があるだけで接種ができない(接種不適当者)ことにはなりません。また、予防接種ガイドラインでは、接種しようとする接種液の成分に対して、アレルギーを呈するおそれのある場合は接種要注意者となりますが、過去のアレルギー症状やワクチンに含まれる成分を考えて、接種前に予診を行って個々に対応をすることになります。各医療機関で予防接種を行う時は、予想できないアレルギー反応にも対応できる十分な準備のもとでワクチンを接種するという原則をとっており、これは過去にアレルギー疾患と診断されていない人も含めて全例に対して同じ姿勢で臨んでいます。

私たちが予防接種で用いるワクチンには、感染症を防ぐための主成分以外にも、その効果を高めたり安定性を維持するためにいくつかの成分が含まれています。ワクチンを接種したときに生じるアレルギー性の副反応は、これら全てが原因となる可能性がありますが、抗原となる可能性が高い物質には卵関連成分、ゼラチン、チメロサール、抗生物質そしてシリンジのキャップなどに使用されるラテックスがあります。しかし、各ワクチンの製造方法の改良がされており、順次、ゼラチン、チメロサール、ラテックスなどを含まない製品に変更されています。

アレルギー疾患の子どもの保護者から質問をされる頻度が多いのは、おそらく鶏卵アレルギーと予防接種の問題でしょう。インフルエンザワクチンが有精卵を用いてつくられることをご存じの方も多いと思いますが、日本で使用されているワクチンに混入する可能性がある卵白アルブミンの量は数ng/mlという値であり、WHOの基準や米国で使用される製品よりはるかに少ない混入量で製造されています。過去の報告をみてみますと、卵由来タンパク質の混入量が日本より多い海外の調査でも、アナフィラキシーの経験がある27名を含む鶏卵アレルギーの子ども83名にインフルエンザワクチンを接種し、アレルギー性副反応がみられなかったという報告があります。国内の最近の報告では、即時型反応歴がある51名を含む鶏卵アレルギーの子ども69名にインフルエンザワクチンを接種した結果、接種による重症副反応例はなく、鶏卵アレルギー以外の子どもと比較して副反応の発生例は高くないという結果も示されています。また、麻疹風疹ワクチン(MRワクチン)は、麻疹ワクチンがニワトリ胚培養細胞、風疹ワクチンがウズラ胚培養細胞を用いてつくられていますが、卵白と交差反応を示すタンパク質はワクチンにほとんど含まれていませんので、副反応の発生と鶏卵アレルギーとは関係がありません。

ワクチンに含まれる成分以外の問題で、アレルギー疾患児に考慮が必要になる場合があるものにはBCGがあります。BCGを接種する部位は、上腕外側ほぼ中央部と規定されています。アトピー性皮膚炎の子どもであっても、この接種部位に湿疹がなければ接種は可能です。しかし、接種部位の湿疹が強い場合は、ステロイド外用薬を用いて湿疹を軽快させた後に接種を受けることができます。このように、医学的理由により接種できないと判断され、規定された期間に接種ができなかった場合でも、1歳までに接種されたときは任意接種の扱いになりますが費用負担は市町村つまり公費負担となります。この救済措置はあくまでも医学的理由によって接種できなかった場合ですので、かならず、かかりつけ医の診察を受けて専門的な判断を受けてください。尚、WHOの勧告では、結核蔓延国(BCGは結核の予防接種であり、日本は結核中蔓延国です)では1歳未満で接種するとしていますが、1歳を超えても保護者が初回接種を希望される場合は有料で任意接種として接種できますので、かかりつけ医にご相談ください。

さて、最後にアレルギー疾患児だけに限らない、予防接種の考え方について、少しふれておきましょう。日本では1948(昭和23)年の予防接種法制定によって、制度としての予防接種が確立されました。その後、数回の法改正があったのですが、なかでも、予防接種による健康被害に関する訴訟に対する裁判所の見解にあうように大きく改正したのが、1994(平成6)年の予防接種法改正です。この改正ではいくつかの方針変換があるのですが、予防接種の努力義務化という点は誤解されやすいようです。この改正前は「予防接種を受けなければならない」という表現でしたが、改正によって「受けるように努めなければならない」という努力義務になりました。この法改正の意味することは、保護者にとって「個人の意志を反映できる権利がある」ということであり、「接種するかしないかを、自由きままに決めて良い」ということではありません。予防接種を受けることは個人を感染症から守るためだけではなく、その社会を感染症から守るという意義があります。この社会防衛の観点から考えると定期接種と任意接種に分ける現行制度もナンセンスです。今年の厚生労働省の予防接種部会では、任意接種のワクチンのうち、小児と成人用の肺炎球菌、Hib、HPV、流行性耳下腺炎(おたふく)、水痘(水ぼうそう)、B型肝炎を定期接種にすべきであると提言がされたところです。しかし、定期接種化に伴う財源の調整や法改正手続きには残念ながら時間がかかりますので、どうか定期接種化を待たず任意接種も含めて、予防接種を積極的に受けるように努めていただけると幸いです。

参考文献:
James JM et al. J Pediatr 133;624-628 (1998)
小倉聖剛ら 日本小児アレルギー学会誌25;581(2011)