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2 「アレルギーのおはなし」第六回 〜アレルギーと概日リズム〜 あいち小児保健総合医療センター 佐々木渓円/メールマガジン73号

みなさま、いかがお過ごしですか。元日に「初日の出」を楽しんだ方もいるかと思いますが、太陽が毎朝昇ってくるのは地球の自転によるものですね。この自転が生み出す昼と夜の明暗変化に適応するために、多くの生物は約24時間周期の体内リズム(概日リズム)をもつように進化しました。近年、この概日リズムは体の正常な働きに影響するだけでなく、アレルギー疾患の症状との関係性を示す研究報告が増えてきています。
まず、はじめに、ヒトの概日リズムの調整方法についてみてみましょう。私たちヒトの体内には多種多様な細胞がありますが、ほぼ全ての細胞で概日リズムに関係する遺伝子が働いています(時計遺伝子とよんでいます)。ヒトの概日リズム周期は24時間より少し長めですので、どこかで地球の自転周期と足並みを揃えないと2つの周期の間に差が生じます。そこで、私たちの体では、眼の網膜にある視細胞が脳の神経細胞(視交叉上核という部分)に環境中の明暗に関する情報を送り、地球と体の間に生じたリズムの差を補正しています。視交叉上核の神経細胞は主に自律神経(交感神経、副交感神経)や副腎皮質から分泌されるコルチゾールを介して体内の各組織に生体リズムに関する情報を送り、私たちの体が調和をとって1つの生命体として活動できるように全体の概日リズムを調整しています。このような概日リズムの調整方法を考えると、日常生活で「夜は眠り、朝は決まった時間に起きること」が、生命体として体の各組織をとって活動するために重要であることがわかります。
さて、代表的なアレルギー疾患である気管支喘息発作は夜から早朝に多くみられますが、これには気温変動だけではなく、夜間に副交感神経系が優位になる自律神経のバランスが気管支の収縮、気管分泌物の増加に影響していることが一因と考えられています。また、アレルギー性鼻炎では、くしゃみ、鼻汁、鼻閉などの症状が、朝に強くなることが知られています。
実験的にも、マスト細胞が関与する皮膚発赤などの即時型反応の強さが時間帯によって異なることが知られており、コルチゾール濃度の日内変動による影響と考えられていました。これに関してNakamuraらは、マスト細胞のもつ代表的な時計遺伝子Period 2がコルチゾールに対する反応性に影響し、即時型反応の概日リズムが生まれることを報告しています。さらに、2012年には、概日リズムが障害されるとコルチゾールの日内変動の消失や血中濃度の低下が生じ、遅延型反応である接触性皮膚炎の症状が悪化することも報告されています。この最近報告された2つの研究はいずれもマウスやマウス由来の細胞を用いた研究であり、さらに詳細な研究が継続されているということです。このような地道な基礎研究の臨床応用が可能になれば、アレルギー疾患の予防や治療の幅が広がる可能性がありそうですね。

参考文献:
Asai M et al. Curr Biol 19;1524-1527 (2001)
Bando H et al. J Neurosci 27;4359-4365 (2007)
Nakamura Y et al. J Allergy Clin Immunol 127;1038-1045 (2011)
Seery JP et al. Ann Allergy Asthma Immunol 80;329-332 (1998)
Smolensky MH et al. Adv Drug Deliv Rev 59;852-882 (2007)
Takita E et al. Br J Dermatol (2012) DOI:10.1111/j.1365-2133.2012.11176.x

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2012年12月29日 18:15に投稿されたエントリーのページです。

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