ダニ、住環境、気象要因とアレルギー疾患(その1)ダニ
環境をどのようにみるか
環境の影響をどのように解析するか

中部大学応用生物学部
環境生物科学科
環境動物 須藤千春

1.はじめに

室内塵性チリダニ類は近年増加しつつある気管支喘息やアトピー性皮膚炎、通年性鼻炎の主要な起病性因子(アレルゲン)の生産者である。したがって、アレルギー疾患の予防対策の第一歩はダニ対策である。そのためにはチリダニの生物学的特徴及び住環境や住まい方との関連を理解することが重要である。

2.アレルギー疾患の成立要因

アレルギー疾患は、体質、アレルゲン、環境要因の相互関係によって成立すると考えられる。
特に、アレルゲン-環境系の理解は予防対策を樹立する上で重要である。また、アレルギー疾患の発症や悪化は、免疫学反応(アレルギー炎症)と同時に環境要因、特に気象要因が深く関わっている。

3.チリダニの特徴

主要なアレルゲン生産者であるチリダニには2種がある
ヤケヒョウヒダニDermatophagoidespteronisinus
コナヒョウヒダニDermatophagoidesfarinae
属名のDermaは皮膚を、phagoは食べるを意味する。すなわち、ヒョウヒダニとは皮膚、特に角皮落屑物(フケ、アカ)を食べるダニという意味である。角皮は最も硬いケラチンという蛋白質からなる。ヒョウヒダニは強力な蛋白質分解酵素をもっている。
両種の形態や食性は類似しているが生態学的特徴には大きな相違がみられる。

4.チリダニの形態(雄)

ヤケヒョウヒダニ(左)とコナヒョウヒダニ(右)を示す。両種とも、大きさは0.4㎜位で、4対の脚をもつ。
ヤケヒョウヒダニの外部生殖器は八字型コナヒョウヒダニの第一脚は特に太い。

5.チリダニの生態学的特徴の比較

チリダニ類は体表面から水分を吸収放散している。湿度が低いと水分の吸収よりも放散が高まり、体重が減少する(臨界平衡湿度)。
臨界平衡湿度、増殖開始時の湿度、優占している家庭の湿度、個体数ピーク時の湿度、発育好適湿度などを比較すると、コナヒョウヒダニはヤケヒョウヒダニよりも約10%低い。
このような湿度要求性の相違により、コナヒョウヒダニは乾燥した地方で、ヤケヒョウヒダニは湿潤な地方で優占している。

6.発育史の比較

ヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニとも、卵→幼虫(脚が3対)→前若虫(脚が4対)→後若虫→成虫(外部生殖が出現)と約30日で発育するが、コナヒョウヒダニでは個体数の増加などにより、生息環境が悪化すると長期発育休若虫が出現する。この若虫は毎年5月頃に脱皮して、成虫になる。すなわち休眠型である。休眠型のダニは、乾燥や低温に強い。

7.相対湿度66%における増殖

湿度25℃、相対湿度66%に保って、コナヒョウヒダニとヤケヒョウヒダニの増殖を比較した。
ヤケヒョウヒダニは発育・増殖できず死滅したが、コナヒョウヒダニは発育し、約30日後から急に個体数が増加した。

8.木造住宅におけるダニの分布

部屋比率(部屋数/家族数)を基に、ヤケヒョウヒダニ優占率を検討した結果、部屋比率の低い家庭ではヤケヒョウヒダニが優占し、部屋比率の高い家庭ではコナヒョウヒダニが優占した。
すなわち、部屋比率の低い家庭は湿潤、高い家庭は乾燥していると考えられた。

9.高層集合住宅におけるダニの分布

コナヒョウヒダニは階層に関わりなく、10階まで生息が認められた。
ヤケヒョウヒダニは4階以上の家庭では極めて少なかった。すなわち、低階層の家庭は湿潤で、高階層の家庭は乾燥していると考えられた。

10.名古屋市内と市外の比較

市内の家庭ではコナヒョウヒダニの優占している家庭が多く、市外ではヤケヒョウヒダニの優占もみられた。
すなわち市内の家庭は乾燥し、市外では湿潤な家庭が多いと考えられた。

11.名古屋市内の5戸における温湿度とダニ密度

年平均相対湿度が65%の家庭では、ヤケヒョウヒダニが優占し、50%の家庭ではコナヒョウヒダニが優占していた。

12.ダニ密度に影響する要因(1)

ダニ密度に影響すると考えられる13要因を用いて重回帰分析を行った。その結果、塵量、湿度、居住区が重要な要因として検出された。

13.ダニ密度に影響する要因(2)

重回帰分析によるダニ密度の推定値と観測値を比較した結果、高い相関が認められ、ダニ密度の推定が可能であると考えられた。

14.塵量とダニ密度(全体)

調査した家庭の塵量とダニ密度を示す。高い相関がみられた。

15.床材別の塵量とダニ密度

たたみ、板、カーペットにおける塵量とダニ密度を比較した結果、塵量の増加に伴いダニ密度が高くなった。
たたみと板(フローリング)では大きな相違が認められなかったが、カーペットでは塵量が多かった。
すなわち、カーペットでは塵の量が多くなるので、ダニ密度も高くなると考えられた。

16.相対湿度とダニ密度

ダニ密度と湿度との相関は低かった。

17.掃除頻度とダニ密度

一週間当りの掃除頻度とダニ密度の関係を検討した結果、掃除頻度とダニ密度に有意な相関は認められなかった。掃除頻度と塵量にも有意な相関は認められなかった。
これらの結果は掃除の方法に問題のあることを示唆した。

まとめ

  1. コナヒョウヒダニはヤケヒョウヒダニよりも乾燥に強い。近年の都市化や冷暖房の普及により室内湿度が低下し、コナヒョウヒダニの優占家庭が多くなっている。
  2. ダニ密度は室内塵量に比例している。したがって塵の除去、掃除がダニ対策の基本となるが、困難なことが多い。新しい作用メカニズムによる安全な殺ダニ剤の開発が望まれる。