アレルギー性鼻炎は、身近な疾患として、「あきらめ」に近い意識をもって考えられがちですが、信頼性の高い意識調査は意外に行われていませんでした。2017年3月に、通年性および季節性アレルギー性鼻炎患者の疾患への認識、行動実態、現在の治療への評価および今後の治療・生活環境改善策についての実態調査がおこなわれ、論文としても発表されましたので紹介します。調査は、35,000人についてスクリーニング調査を行い、通年性アレルギー性鼻炎患者800 名、その比較対照として季節性アレルギー性鼻炎患者800名の計1,600名について本調査が行われました。そこでわかった概要は以下のとおりです。

アレルギー性鼻炎をもつ患者の意識と行動に関するアンケート調査
〜通年性アレルギー性鼻炎患者のQOL向上のために〜

岡本美孝 (千葉大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科・頭頚部腫瘍学)
太田知裕 (帝人株式会社ヘルスケア新事業部門 兼 帝人フロンティア株式会社アドバイザー)
谷内邦治 (ダイキン工業株式会社空調営業本部事業戦略室)
金子義明 (株式会社サンゲツ ロジスティクス本部インテリア事業本部)
余田貴洋 (塩野義製薬株式会社医薬事業本部製品戦略部)

(1)はじめに

わが国のアレルギー性鼻炎患者数は近年増加傾向にある1,2)。アレルギー性鼻炎は通年性アレルギー性鼻炎と季節性アレルギー性鼻炎に大別され、前者は慢性型、後者は急性型ともいわれている。

通年性アレルギー性鼻炎の主な原因は、世界的に共通する 2 種類の家塵(ハウスダスト)ダニのヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニといわれており3)、寝具を媒介にこれらのダニ抗原(アレルゲン)に曝露される機会がもっとも多いとされる。そのため、季節性アレルギー性鼻炎に比べると低年齢でのアレルゲン感作や鼻炎発症の割合が高い1)。さらに、低年齢での発症と慢性化に伴って症状が日常化しているために、患者は鼻炎症状を自覚していても“疾患”と捉えていない可能性や、あるいは疾患を認知していても症状改善に対する諦めが強い傾向にあるともいわれている。

アレルギー性鼻炎の治療には現在、抗ヒスタミン薬や鼻噴霧ステロイド等の薬物を用いた対症療法が主流であるが、唯一の原因療法として考えられているのがアレルゲン免疫療法である。これは原因アレルゲンを直接体内に投与することで、アレルゲンに対する反応性を徐々に低減させる治療法である1,3)。近年、重篤な副作用が少なく、投与による痛みがなく自宅での投与が可能な免疫療法として舌下投与法が注目されている。わが国でも2014 年から季節性アレルギー性鼻炎であるスギ花粉症に対して舌下タイプのアレルゲン免疫療法(舌下免疫療法)薬が発売された。さらに翌年には、ダニによる通年性アレルギー性鼻炎への舌下免疫療法薬が世界に先駆けて発売されている1)

さらに、アレルギー性鼻炎の治療においては、原因となるアレルゲン曝露を避けるための生活環境改善は不可欠である1)
アレルギー性鼻炎は致死性の疾患ではないものの、生活の質が損なわれるだけでなく、労働生産性や学習への影響も懸念されており、さらには近年その有病率が上昇していることなどから、重大な社会問題としても捉えられつつある4)。特に、若年者に多いとされる通年性アレルギー性鼻炎は、その後の長期的な影響を考慮すれば長期寛解をめざした治療を取り入れることや、積極的に生活環境を改善することが特に望まれるところである。

(2)調査について

アレルギー性鼻炎患者の疾患への認識、行動実態、現在の治療への評価および今後の治療・生活環境改善策についての実態を調査した。調査は、35,000人についてスクリーニング調査を行い、2017年3月に通年性アレルギー性鼻炎患者800 名、その比較対照として季節性アレルギー性鼻炎患者800名の計1,600名について本調査を行った。

(3)まとめ

本調査の研究者である、千葉大学大学院医学研究院 耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学教授 岡本美孝先生は次のように述べている。
「通年性アレルギー性鼻炎への対策のひとつとして、生活環境の改善は非常に重要です。しかし、今回の調査からは、空気清浄機の使用者は19.4%、防ダニ・防花粉のシーツや布団カバーの使用者は4.5%と、かなり少ないことが明らかとなりました。ベッドのマット、ふとん、枕にダニを通さないカバーをかけることもダニの除去の方法としてガイドラインで推奨されており1)、防ダニ寝具カバーを用いることは効果があります5-8)

また、ガイドラインでは掃除とともに除湿器を用いて室内の湿度を上げないことも、ダニの減量に効果的であるとされています1)。そこで室温・湿度を空調機や空気清浄機、あるいは除湿機を用いてコントロールすることによりダニの増殖抑制、アレルゲン曝露の回避が期待できます9,10)

なお、本調査において、寝具対策の認知度が高いほど防ダニ寝具カバーの使用意向が強く、室内環境対策の認知度が高いほど空気清浄機の利用意向が強いことが示されました。この傾向は通年性・季節性を問わずに認められたことから、アレルギー性鼻炎への対策法の認知を高めることが、患者の抗原回避の対策行動につながる可能性が示唆されました。
アレルギー性鼻炎に対する病院での治療については、通年性患者の6割が受けておらず、治療中の患者であっても治療に対する評価は季節性に比べて低かいことが明らかになりました。ただし、舌下免疫療法を知っている、あるいは医師から提案された通年性患者では、舌下免疫療法の受療意向が強まる傾向が認められています。この結果は、舌下免疫療法に対する患者の認知が広がれば治療実施につながる可能性が期待されます。
当調査によって、アレルゲンとしてのダニが与えている影響が広く再認識され、適切な予防策や治療が行われることによって、ダニアレルギー患者のQOLが高まることが望まれます。」

(4)調査結果

1.「鼻アレルギー診療ガイドライン:通年性鼻炎と花粉症 2016年版(改訂第8版)」

(以下、ガイドライン)に基づく通年性・季節性アレルギー性鼻炎患者の重症度(スクリーニング調査から)

⇒10代では中等症以上が6割を超え、若年層で症状が重い傾向 (図1)

  • 通年性・季節性患者別では、通年性患者で「中等症」以上が49.1%と、季節性患者の46.1%よりもやや多かった。
  • 年代別にみると、10代の「中等症」以上の割合は通年性患者で63.0%、季節性患者で61.6%と、いずれも6割を超えた。また、20代ではそれぞれ52.6%、50.0%、30代でも50.0%、49.8%と約半数で、いずれの疾患でも若年層で症状が重い傾向が示された。

図1 アレルギー性鼻炎患者の重症度
10代の中等症以上が6割を超え,若年層で症状が重い傾向

2.アレルギー性鼻炎に対する認識

⇒通年性患者は、「症状が重いと感じていない」が51.8%、「仕事や勉強、日常生活への影響が大きいと感じていない」が50.0%、「体質だから仕方が無い」が56.6%、また、「慣れて普段は気にしていない」が54.3%だったが、66.5%が「できれば完全に治したい」と考えている(図2)

3.アレルギー性鼻炎に対する理解や知識、学習態度

⇒通年性患者は鼻炎の症状を「持って生まれた体質」と考える傾向があり、学習経験が少なく、予防への意識も低い(図3~6)

  • 「持って生まれた体質だ」:通年性患者では56.8%と半数を超えていたが、季節性患者では42.7%にとどまった。
    「治療法によっては長期寛解をめざせる病気だ」:通年性患者の25.9%、季節性患者では29.2%程度にとどまった。
  • 「アレルギー性鼻炎について知っている」:通年性患者は42.8%で、季節性患者の51.8%に比べて「知識」が9ポイント低かった。
  • 「アレルギー性鼻炎に関する学習経験」:「アレルギー性鼻炎について全体的に調べた」は、通年性患者は58.1%で、季節性患者の65.2%に比べて低く、通年性患者では季節性患者に比べて病気に関する知識とともに学習経験も少なかった。
  • 「予防グッズはどこで手に入るかわからない」は、通年性患者では28.9%、季節性患者では16.7%、「予防は効果があるかわからないので、お金をかけてまではやらない」は39.1%、28.6%で、通年性患者の予防に対する意識が低いことが示された。

図3 アレルギー性鼻炎に対する捉え方
「持って生まれた体質だ」:通年性患者では56.8%と半数を超えていたが,季節性患者では42.7%にとどまった
「治療法によっては長期寛解をめざせる病気だ」:通年性患者の25.9%,季節性患者では29.2%程度にとどまる

図4 アレルギー性鼻炎についての知識
「アレルギー性鼻炎について知っている」:通年性患者は季節性患者に比べて,すべての項目で割合が低かった

図5 アレルギー性鼻炎についての学習経験
「アレルギー性鼻炎に関する情報をどの程度自分で調べたか」:通年性患者は季節性患者に比べて学習経験が少ない

図6 アレルギー性鼻炎についての学習態度
「予防グッズはどこで手に入るかわからない」は,通年性患者では28.9%,季節性患者では16.7%,「予防は効果があるかわからないので,お金をかけてまではやらない」は39.1%,28.6%と両者の間に予防に対する意識の違いが示された

4.アレルギー性鼻炎に対する現在の病院治療や受診、および評価

⇒病院での治療を受けていない通年性患者は6割を超え、治療に対する評価が低い傾向にある。また、医師から「舌下免疫療法」の説明、「防ダニ寝具」や「対策グッズ」をすすめられた人の割合は低い(図7・8)

  • アレルギー性鼻炎の治療を病院で行っていない:通年性患者62.4%と6割を超えており、季節性患者の38.3%と比べて24.1ポイント高い
  • 「医師から舌下免疫療法について説明されたことがある」:通年性患者14.3%、季節性患者13.7%と、ともに低かった
  • 「医師から家庭内での防ダニや防花粉の“寝具”について利用をすすめられたことがある」は、通年性14.3%、季節性12.7%、「医師から家庭内での防ダニや防花粉の“対策グッズ”の利用をすすめられたことがある」は通年性15.3%、季節性12.5%と、通年性、季節性ともに医師からの説明や利用をすすめられた人の割合は低い

図7 アレルギー性鼻炎について現在受けている治療
病院での治療を受けていない通年性患者は6割を超え,治療に対する評価が低い傾向にある

図8 アレルギー性鼻炎の治療を受けている病院の医療者との関係
医師から「舌下免疫療法」の説明,「防ダニ寝具」や「対策グッズ」をすすめられた人の割合は低い

5.アレルギー性鼻炎に対する日常的な対処行動と今後の対処行動の意向

⇒対処行動としては、「掃除」「食事」「睡眠」の順。「空気清浄機の利用」は通年性患者で、「現在利用している」19.4%だが今後の「利用意向」は45.4%、「防ダニ・防花粉のシーツや布団カバーの利用」は、「現在利用している」4.5%だが今後の「利用意向」は36.8%だった (図9・10)

  • 現在の対処行動:通年性患者でもっとも多かったのは、「家の中をまめに掃除している」33.3%、次が「バランスのとれた食生活を心掛けている」29.0%、「十分な睡眠をとるようにしている」26.1%と続いた。
  • 「家では空気清浄機を使っている」:通年性患者は19.4%にとどまったが、季節性患者は27.9%と3割近く。
  • 「防ダニ・防花粉のシーツや布団カバーを利用している」:通年性患者で4.5%、季節性患者では3.5%といずれも低い。
  • 今後の対処行動の意向:「十分な睡眠をとる」が最も高い(通年性66.6%、季節性72.6%)(図17)。次いで「バランスのとれた食生活を心掛ける」(61.4%、65.6%)、「家の中をまめに掃除する」(58.2%、54.7%)
  • 「家では空気清浄機を使う」:通年性患者45.4%、季節性患者50.8%といずれも半数程度。
  • 「防ダニ・防花粉のシーツや布団カバーを利用する」:それぞれ36.8%、31.0%と、3割を超えた。

図9・10 アレルギー性鼻炎に対する日常的な対処行動と対処行動の今後の意向
対処行動としては,「家の中をまめに掃除している」33.3%。「空気清浄機」は通年性患者で,現在19.4%だが今後の利用意向は45.4%,「防ダニ・防花粉のシーツや布団カバー」は,現在4.5%だが今後の利用意向は36.8%と少なくない

図9 アレルギー性鼻炎に対する日常的な対処行動
図10 アレルギー性鼻炎に対する対処行動の今後の意向

6.各対処法への評価

⇒「舌下免疫療法」について医師から説明を受けた通年性患者の実施意向は48.8%で、受けたことのない人の実施意向(23.7%)の2倍以上。「防ダニ・防花粉のシーツや布団カバー」と「空気清浄機」についても認知者の利用意向は非認知者より大幅に高かった(図11~13)

  • 「舌下免疫療法」の医師からの説明:医師から説明を受けた通年性患者の実施意向は、48.8%で、受けたことのない人の23.7%より2倍以上高かった
  • 「防ダニ・防花粉のシーツや布団カバー」:認知者の通年性患者の利用意向率は60.3%、非認知者で36.2%で、認知者で24.1ポイント高かった
  • 「空気清浄機」:通年性患者で「室内環境(掃除や温度・湿度)の対策」の認知者の利用意向は68.6%、非認知者は50.9%で、認知者で17.7ポイント高かった

図11~13 各対処法への評価
「舌下免疫療法」について医師から説明を受けた通年性患者の実施意向は48.8%で,受けたことのない人の実施意向(23.7%)の2倍以上。「防ダニ・防花粉のシーツや布団カバー」については,説明を読んだ人では60.3%で非認知者36.2%より24.1ポイントアップ。「空気清浄機」についても認知者の利用意向は68.6%で,非認知者50.9%より17.7ポイントと大幅に高かった

図11 舌下免疫療法について医師から説明を受けた患者と受けたことのない患者比較

図12 防ダニ寝具カバー 認知者と非認知者の比較
以下の説明を読んでの回答
「防ダニ寝具カバー」とは、アレルギーの原因物質であるダニの死骸・フンをお布団やマットの中に閉じ込めることで、肌との接触を防ぐものです

  • 「ベッドのマット、布団、枕にダニを通さないカバーをかける」ことは、アレルギーの原因物質との接触を防ぐ方法の一つとして、「鼻アレルギー診断ガイドライン」でも紹介されています。
  • 「防ダニ寝具カバー」には、防ダニ剤を使わず、カバーの生地を工夫することで(極細繊維を緻密に織り上げることで、ダニの死骸・フンをお布団に閉じ込める)、長く安心してお使いいただけるものもあります。
  • 極細繊維であるポリエステルを使用しているものは、コットンの寝具カバーと比べて、ハウスダストの発生も抑えることができます。
  • ダニの発生自体を抑えるものではないため、マッチ、布団、枕は定期的なケア(掃除機をかける、干す、クリーニングに出す)は必要です。

図13 空気清浄機 認知者と非認知者の比較
以下の説明を読んでの回答
「空気清浄機」は、空気中に浮遊する、アレルギーの原因物質であるダニの死骸・フンを含む、ハウスダストを除去する家電製品です。

  • 目の細かいフィルターで、肉眼では見えない、小さなハウスダストまで除去することができます。
  • フィルターでハウスダストを除去し、きれいな空気を排出します。
    8畳のお部屋であれば、約10分できれいにすることができます。
  • ハウスダストだけでなく、花粉やウィルスについても除去することができます。
  • 空気清浄機から飛び出すイオンだけでなく、空気清浄機内部でアレルゲンを分解する技術を搭載しているものがあります。
    *アレルゲン…花粉・ダニ・ハウスダストなど
  • 加湿機能が付いている商品もあり、乾燥(アレルギー症状を悪化させることもある)を防ぐことができます。
  • また、加湿だけでなく除湿も付いている商品もあり、全自動で湿度のコントロールができます。
  • ダニの発生自体を抑えるものではありません。
  1. 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会.鼻アレルギー診療ガイドライン:通年性鼻炎と花粉症2016 年版(改訂第8 版).ライフ・サイエンス;2016.
  2. 西間三馨,小田嶋博,太田國隆,岡尚記,岡崎薫,金谷正明ほか.西日本小学児童におけるアレルギー疾患有病率調査:1992,2002,2012 年の比較.日小ア誌 2013;27:149‒69.
  3. 日本アレルギー学会.ダニアレルギーにおけるアレルゲン免疫療法の手引き.日本アレルギー学会; 2015.
  4. 大久保公裕,奥田稔.インターネットを用いたアレルギー性鼻炎患者に対するアンケート調査2011.アレルギー・免疫 2012;19:113‒24.
  5. 井上寿茂, 豊島協一郎, 吉田政弘. 寝具のダニの環境整備: 特殊シーツによる寝具のダニの封じ込め作戦. アレルギーの臨床 1989;9:42-3.
  6. Nishioka K, Yasueda H, Saito H. Preventive effect of bedding encasement with microfine fibers on mite sensitization. J Allergy Clin Immunol 1998;101:28-32.
  7. Tsurikisawa N, Saito A, Oshikata C, Nakazawa T, Yasueda H, Akiyama K. Encasing bedding in covers made of microfine fibers reduces exposure to house mite allergens and improves disease management in adult atopic asthmatics. Allergy Asthma Clin Immunol 2013;9:44.
  8. 亀崎佐織, 住本真一, 末廣豊, 桂禎邦, 前田親男. 気管支喘息児における掃除介入によるダニ特異的IgE値の変化. 日小ア誌 2016;30:111-9.
  9. 吉川翠. 家屋内生息性ダニ類の生態および防除に関する研究(8). 家屋害虫 1995;17:24-36.
  10. Peden D, Reed CE. Environmental and occupational allergies. J Allergy Clin Immunol 2010;125(2 Suppl 2):S150-60.